中国人民銀行は今後5年間の政策方針として、中央銀行デジタル通貨(CBDC)「デジタル人民元」の安定的な発展を進める。試験導入の段階にとどめず、金融インフラ改革の重点課題に位置付け、国内決済網の高度化と国境間利用の拡大を並行して進める構えだ。
Cryptopolitanが10日に報じたところによると、中国人民銀行はこのほど公表した「第15次5カ年」改革・発展計画で、デジタル人民元の安定的な発展を主要課題の一つに掲げた。
計画では、デジタル人民元を金融インフラと中央銀行サービス改革の優先分野に組み込んだ。決済システムの改善や信用評価産業の支援、マネーロンダリング防止規制の強化を進める中で、その役割を広げる方針としている。デジタル人民元は、特定地域での実証的な決済手段から、中国の金融制度やインフラに組み込まれる段階に入りつつあるとみられる。
重点分野の一つは国境間での活用拡大だ。中国人民銀行は、貿易・投資における人民元利用を増やし、国境間決済ネットワークの整備を進めるほか、オフショア人民元市場の発展も後押しする方針を示した。
あわせて、上海の国際金融センター機能の強化と、香港の国際金融ハブとしての役割拡大も進める。デジタル人民元の海外展開は、単なるCBDC普及策にとどまらず、人民元の国際化戦略とも連動する位置付けになる。
制度面の整備も進み始めた。中国は2026年初め、商業銀行が顧客のデジタル人民元残高に利子を支払えるようにする制度的枠組みを整えた。決済手段としての性格が中心だったデジタル人民元に、預金に近い機能や追加的な金融利用を持たせる動きといえる。
デジタル人民元の取り組みは2014年にさかのぼる。中国人民銀行は当時、「DCEP」の名称でデジタル通貨の研究を開始し、2022年4月にデジタル人民元を正式始動した。その後は複数の試験都市で給付型の普及策などを実施し、利用基盤を広げてきた。
法的位置付けを巡る議論も続いている。2026年の全国人民代表大会では、フ・シグオ副代表が中国人民銀行法の改正を提案した。2003年以降改正されていない現行法では、デジタル人民元が法定通貨として明示されていない点を問題視したという。
実利用の拡大に対し、法的基盤の整備はなお途上にある。今後、法改正が実現すれば、デジタル人民元の制度上の位置付けや金融機関の役割は一段と明確になる見通しだ。
地方政府による実証も続く。広東省は、9月5日まで意見募集を実施している5カ年計画案で、国境間のデジタル人民元決済の実験を拡大し、活用事例を増やす方針を示した。中央政府の方針が、地方レベルの具体的な実証事業にも波及している格好だ。
国境間決済では具体例も出始めている。中国はシンガポールと、デジタル人民元を活用した初の国境間決済を実施した。
また、中国工商銀行の支店は、機能を強化したCBETSプラットフォームを通じて約1000万元規模の海運費用を決済した。6月には同システムに26の金融機関が初めて参加した。
複数のCBDCに対応する決済プラットフォーム「mBridge」の活用範囲も広がっている。中国本土、香港、タイ、アラブ首長国連邦、サウジアラビアなどが参加するmBridgeは、興業銀行を通じてマカオまでサービス対象を拡大した。同プラットフォームでは、株式取引に関連する5億元規模の資金移転も行われた。
興業銀行の関連企業顧客数は、2026年上半期に前年同期比176%増となった。中国銀行の福建支店も、mBridgeを通じて100億香港ドル超を処理した。中国銀行は、プラットフォーム史上最大規模の単一送金だとしている。
中国はデジタル人民元の制度整備と国境間決済インフラの拡充を同時に進めており、実取引の規模も拡大している。今後の焦点は、制度化のスピードと海外での利用範囲だ。
中国人民銀行が「安定的な発展」と表現した以上、短期間で既存の金融システムをデジタル人民元へ全面移行するのではなく、決済インフラの高度化、法制度整備、国境間の実証を段階的に広げる公算が大きい。国境間決済網やmBridgeなど国際決済インフラの活用が進めば、デジタル人民元は国内の決済手段を超え、人民元国際化を支える金融インフラとしての性格を強める可能性がある。