米Business Insiderは5日(現地時間)、AIに深くのめり込む開発者やヘビーユーザーの間で、周囲との会話や人間関係にずれが生じ、孤立感を強めるケースが広がっていると報じた。長時間の実験やバイブコーディングに没頭する一方、家族や友人との間でAIを巡る温度差が広がっているという。
米マイアミ出身の25歳、ジェフリー・エスコバル氏は、家族がフランス対イングランドのワールドカップの試合を見に出かけた際も、自宅に残ったという。同氏は「友人が遊んだりNetflixを見たりしている間も、自分は机の前を離れられなかった」と振り返った。
AIアプリのスタートアップ「Addicting Elements」の共同創業者でもあるエスコバル氏は、自身の感覚を「暗い部屋で、自分だけが光を持っているようなものだ」と表現した。
ただ、その没頭は孤独とも表裏一体だ。同氏は「他人とうまく会話することも、異性とデートすることも難しい」と話す。相手に自分の考えや熱量が伝わらないと感じるためだという。
唯一の拠り所は、スタートアップの共同創業者仲間だ。完全に人付き合いがないわけではなく、1日の大半を会議に充てることもあるが、AIへの熱意やプレッシャーを共有できる相手は、現実にはごく限られているとしている。
同様の例はほかにもある。米ヒューストン出身の26歳、カイル・スミザーマン氏は、AIコンサルティングサービス「UnlockAI」に全力を注ぐなかで、恋人との関係にもひびが入ったと明かした。
同氏はAIビジネスを芝刈り事業になぞらえ、「芝刈りなら何をしているのかが明確なので、恋人も理解できたはずだ」と説明。そのうえで、「エージェントベースのワークフローを作り、グラフループを学び、エージェントで反復処理を回していると言っても、『それは何なのか』という反応だった」と語った。
さらに、「自分にはAIがドットコムブームやiPhone登場に匹敵する変化に見えるのに、家族や友人は大したことではないように受け止めている」と不満を示した。「このギャップのせいで、周囲には自分がおかしくなっていくように見えているかもしれない」とも話した。
AIへの没頭は友人関係にも影響する。サンフランシスコとラスベガスを行き来する32歳の航空宇宙エンジニア、バイバブ・クマル氏は、夕食の席で中国のAIモデル「Kimi K3」の話題を出したところ、友人と衝突したという。相手がAIやデータセンターを否定的に捉えており、その場の空気が一気に冷え込んだからだ。
クマル氏は「AIに関心のある友人は1人しかいない。他の友人はAIの話を聞きたがらない」と語る。AI関連のニュースを追い続ける日々については、「どんどん勢いを増すホースから水を飲んでいるような感覚だ」と表現し、AI以外の世界がほとんど見えなくなるような孤立感を吐露した。
Business Insiderは、こうした孤独が、個人の過度な没入だけでなく、AIを受け入れる速度の違いによる文化的な断層を映している可能性があると分析した。若い世代の一部にはAI疲れや拒否感もみられる一方、AIを嫌ってはいないが積極的には使わない層もいるという。
これに対し、パワーユーザー級の利用者は、新しいモデルやツール、業務自動化の手法が日々押し寄せるなかで、遅れまいと情報収集と実践を続けている。この差が、会話のすれ違いや関係の消耗につながっているとの見方だ。
対応策として挙がっているのが、オフラインでAIコミュニティを見つけることだ。オンラインにはXなどのコミュニティがあり、現実の場でも地域の創業者コミュニティやAIミートアップが存在するという。
米ミルウォーキー出身の39歳、ジョナサン・リントン氏は、会計事務所でAIリーダーを務める傍ら、「Fresh Coast AI」でコンサルティング事業を運営している。同氏はAIを新たな開拓地になぞらえた。かつてミャンマーで働いた際、経済開放のなかで同じ目標を持つ人々が集まり、共同体が生まれる様子を目にした経験があるという。そのうえで、「AIという開拓地では、周囲に同じ関心を持つ人が少なく、島にいるように感じる」と述べた。
リントン氏は最終的に、地元で開かれる創業者向けイベントを回る一方、オンラインでも同じ関心を持つ相手を探すようになったという。
AIコミュニティは男性中心の傾向があるものの、孤独は、いわゆる「Tech Bro」だけの問題ではない。31歳の女性会計士、アリサ・クラーク氏は、AIについて「誰も聞きたがらない巨大な秘密のように感じた」と語った。
クラーク氏は、LLMを扱うなかでの経験をTikTokやLinkedInに投稿し始めたと明らかにした。オンライン上の発信や交流で一定の渇きは満たされる一方、対面で会話できる相手は依然として限られているという。
それでも同氏は、「TikTokで知り合ったAIに関心のある友人と実際に会い、コーヒーを飲める関係を築けた」と話し、手応えを示した。
Business Insiderは、AI時代の最前線にいると感じる人々に必要なのは、新たなツールではなく、同じ問題意識を共有できる現実のコミュニティなのかもしれないと指摘している。