ByteDance創業者のジャン・イーミン氏が、自社のAIモデル開発で「蒸留」手法を用いない方針を明確にした。米国が中国AI企業による蒸留活用への警戒を強めるなか、ByteDanceは動画生成モデル「Seedance」を軸に、自前の開発路線を維持する姿勢を示した。
ブロックチェーン系メディアCryptopolitanが5日(現地時間)に報じたところによると、ジャン氏は最近、ByteDanceのAI戦略に直接関与している。上級研究陣と面会してモデル開発の進捗を点検し、人材採用の状況も確認しているという。
蒸留は、高性能な大規模モデルの出力をもとに、より小規模なモデルを学習させる手法を指す。業界では広く利用され、法的に許容されるケースも多いが、従来は比較的限定的な規模で実施されることが多かった。
こうしたなか、ジャン氏は蒸留の採用に否定的な立場を示した。Cryptopolitanは、同氏がByteDanceのAIモデル学習に蒸留を使うことに強く反対していると伝えた。中国AI業界の一部では、コストと時間を抑える目的で同手法を活用しているとの見方も出ているが、ByteDanceはそれとは異なる道を選んだ形だ。
この判断は、同社の動画生成モデル「Seedance」の開発方針とも重なる。ByteDanceはSeedanceを、収益性と性能の両立を狙う中国発AI製品の一つと位置付けている。Seedance 2.0は、社内でコスト負担や過度なスケール拡大を巡る異論があったものの、2000億超のパラメータ規模を念頭に開発が進められた。当時は、この規模を過度に攻めた計画とみる社内人材もいたという。
それでもByteDanceは、大規模なGPU投資やデータ確保、高度人材の採用に資金を集中した。その結果、モデル事業の粗利益率は70〜90%水準にとどまったとされた。ジャン氏が近道ではなく、コスト負担の大きい自社開発路線を選んだ背景には、こうした事情があるとみられる。
米国では足元、中国AI企業による蒸留利用への監視が一段と強まっている。ホワイトハウス科学技術政策室を率いるマイケル・クラチオス氏は、Moonshot AIが自社AIシステム「Kimi K3」を構築する過程で、Anthropicの「Fable」モデルを蒸留した可能性があると主張した。また、Moonshot AIが検知を避けるためにアクセス経路を切り替える内部プラットフォームを運用し、米国の輸出規制で中国向け輸出が禁じられたNVIDIA GB300サーバをタイで使用したとも記した。
Anthropicは、偽アカウントを通じてMoonshot AIに関連するClaudeの対話340万件を追跡したと伝えられている。一方、Moonshot AIはこの疑惑について現時点で回答していない。
米政府の対応は規制論議にも波及している。スコット・ベセント財務長官は、中国企業が蒸留を産業規模で導入する場合、制裁を検討し得ると述べた。米下院では、蒸留の試行をより容易に識別し、制裁につなげるための超党派法案も進められている。
こうした状況を受け、米国内では中国とのAI格差が急速に縮小しているとの危機感も強まっている。スタンフォード大学Human-Centered AI研究所の資料によると、両国の最上位モデルの性能は事実上同水準とされた。米国がAI投資で中国の23倍の資金を投じながら、優位を維持できていないとの指摘が出る背景だ。
ByteDanceの今回の方針は、単なる開発手法の選択にとどまらない。米中AI競争が激しさを増すなか、中国企業がどの学習手法とインフラ戦略を採るのか、その一端を示す動きとして注目される。ByteDanceが今後もSeedanceを軸とする自社開発路線を維持するのかが焦点となりそうだ。