写真=Universal Pictures

クリストファー・ノーラン監督の新作映画「Odyssey」を巡り、作品解釈をめぐる論争が続いている。興行面では公開後に好調な数字を記録している一方、古典学者エミリー・ウィルソン氏が厳しく批判したことで、評価は大きく割れている。米Ars Technicaが2日(現地時間)に報じた。

同作は、紀元前8世紀ごろの叙事詩を現代的に翻案した作品だ。トロイ戦争を生き延びたイタカの王オデュッセウスが、故郷への長い帰路でポリュペモスやセイレン、キルケらと対峙する姿を描く。

故郷では、妻ペネロペが王位を狙う求婚者たちを退け続け、息子テレマコスは父の生存を信じて捜索に出る。

ノーラン監督は、このよく知られた物語をIMAX向けの大作として描きながら、同時に私的な感情のドラマとして再構成した。作品は吟遊詩人がトロイ陥落を語る場面から始まり、ホメロス原作の非線形の構成も取り入れている。

物語は入れ子状に展開し、オデュッセウスは記憶を失ったかのような状態のまま、トロイ戦争と帰還の断片を少しずつ取り戻していく。作品の軸となるのは、彼が何を忘れようとしていたのか、そしてどのような真実と向き合えば故郷へ戻れるのかという点だ。

この作品でのオデュッセウスは、単純な英雄としては描かれない。自らの知略がトロイにもたらした惨禍から目を背けてきた人物として位置付けられている。

映画は、オデュッセウスがペネロペの前で、長い不在の背景に良心の呵責があったと認める場面へと収れんしていく。一部では著名俳優の出番が少ないとの声も出たが、ノーラン作品では登場時間の長さが役割の重さと一致するとは限らないとみられている。

ゼンデイヤが演じるアテナ、エリオット・ペイジが演じるシノン、サマンサ・モートンが演じるキルケはいずれも出番は多くない。ただ、それぞれがオデュッセウスの罪悪感や、暴力が残した代償を浮かび上がらせる役割を担っている。

興行成績も好調だ。興行収入はすでに7億ドル(約1050億円)を超え、制作費2億5000万ドル(約375億円)を大きく上回った。前作「オッペンハイマー」の最終興収も超えたという。

技術面や俳優の演技に対する評価も高く、アカデミー賞で複数部門のノミネートや受賞が有力視される一方、作品解釈をめぐる反発も強まっている。

論争の中心にいるのが、古典学者エミリー・ウィルソン氏だ。同氏は、映画がオデュッセウスの視点に偏りすぎており、女性登場人物や神々の役割を縮小したほか、戦争被害者の視点も十分に描かなかったと批判した。

さらに、台詞やロケ地の選定についても問題を提起した。一方で、ノーラン監督の芸術的意図を評価するとしながら、実際にはその意図を十分に踏まえていないのではないかとの見方も出ている。

これに対し、ノーラン監督の狙いは原作の忠実な再現ではなく、神々を人間的な存在として捉え直し、超自然的な出来事を自然現象のように見せながら、自身の主題に沿って原典を再構成することにあったと受け止められている。

ノーラン監督は学者ではなく創作者であり、歴史的に正確で100%忠実な「Odyssey」を目指したわけではない。古典を現代的に再解釈し、その過程で不完全ではあっても意味のある真実を探った作品だという評価だ。

翻訳が原作に訳者個人の選択や視点を刻み込む営みであるのと同じように、翻案もまた創作者の解釈を反映する。ホメロスの「Odyssey」に唯一の正解はなく、時代や作り手ごとに異なる形でよみがえる作品だと位置付けられている。

日本国内でも関心は高い。公開日の5日午後3時44分時点の予約率は47.9%で、「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」の34.2%を上回り首位となった。

予約観客数は53万7440人。公開初日から、夏の映画興行をけん引する有力作として好調な出足を見せている。

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