OpenAIが、Appleとの営業秘密訴訟で反論を強めている。Appleが仮差し止め命令を申し立てたのを受け、OpenAIは元Apple社員と現職社員のメッセージや電子メールを公開し、Appleが主張する組織的な機密奪取ではなく、私的な接触の範囲にとどまると訴えた。
海外メディアが8月4日に報じた。公開資料では、Apple側の主張するような組織的な情報持ち出しではなく、元社員の知見を確認しようとした個別のやり取りだった点が強調されている。
訴訟の焦点は、Apple出身者がOpenAIに移った後も、Appleの社内技術情報がやり取りされていたかどうかにある。Appleは、25年勤務した社員や、iPhoneの電気系エンジニアとして10年間働いた人材などが、社内システムへのアクセス権限や社内知識を維持していたと主張している。
Financial Timesによると、Appleはこのうち、OpenAIの最高ハードウェア責任者(CHO)であるタン・タン氏について、Apple出身の応募者の面接時に機密情報の共有を求めたと指摘した。さらに、一部パートナーに対し、自社の製造関連の機密情報を共有してよいと伝えたとも主張している。
これに対しOpenAIは、ブログでAppleの主張に反論した。Appleについて「歴史上最も偉大な企業の一つであり、細部にまで徹底して管理を行うことで評価を築いてきた」としつつ、今回の訴訟は「ずさんで攻撃的であり、不自然なほど個人攻撃的だ」と批判した。
OpenAIが公開した資料には、ルイ・チャン氏と、氏名が伏せられたApple現職社員との会話が含まれる。現職社員は、仕事面で不安があり助けが必要だといった趣旨を伝えた上で、特定の技術項目について説明し、それを理解している電気系エンジニア(EE)につないでほしいと依頼した。
これに対し、ルイ・チャン氏は関連する内容に触れつつ、記憶にある別のApple社員にも言及して応じた。さらに、「今思えば、ほかの優秀な人たちもそのチームを去っていた」と述べ、現在もAppleに残っている可能性のある人物に言及した。
このやり取りは、訴訟の別の争点である社内知識の空白を示す内容とも受け取れる。公開された会話には、回路図や電源ブロック図に関する記述も含まれていた。
また、Appleの社内のコミュニケーションシステムから送られたとみられる自動招待メッセージの後、チャットに追加された社員の1人は「これは極めて異例なので、この会話から外してほしい」と反応した。現職社員が別の社員を状況共有のために追加したと説明した後、やり取りは社内の議論へ移り、ルイ・チャン氏はその後ほとんど発言せず、反応を示すにとどまったという。
OpenAIはさらに、Appleがルイ・チャン氏に接触したとする主張についても誤りだと反論した。公開されたメールには、Apple側がルイ・チャン氏と、OpenAI側の弁護士であるチェ・チャン氏の名前を取り違えたとみられる経緯が記されていた。Appleの当初主張の一部で、事実関係の食い違いが浮かび上がった形だ。
もっとも、今回の資料公開で訴訟が決着するわけではない。Appleは提訴後、OpenAIに書簡を送り、仮差し止め命令を申し立てる意向を伝えたとしている。
海外報道によると、Appleはこの書簡で、(1)Appleの機密情報へのアクセスと使用の停止(2)関連する公開行為の即時中止(3)すべての証拠の保全(4)端末、クラウド、電子メール、Slack、Teamsなどに対するフォレンジック調査の許可(5)OpenAIのシステム内にあるApple機密情報の検索――の5項目を要求した。OpenAIはこのうち、最初の3項目には同意した一方、残る2項目には応じなかったとされる。
これを受け、Appleは裁判所に仮差し止め命令を正式に申し立てた。OpenAIによるAppleの営業秘密の使用・取得の即時停止に加え、証拠保全、AppleによるOpenAIの端末やアカウントを対象としたフォレンジック調査の実施、OpenAIが保有するApple機密情報の回収を求めている。
Appleは申立書で、「営業秘密に関する請求が本案でも認められる可能性が高い」と主張した。あわせて、迅速な証拠開示を求める申立書も提出し、ルイ・チャン氏やタン・タン氏を含むOpenAIの中核社員について、早期に証言を行わせるよう裁判所に要請した。仮差し止め命令の審理は2026年10月1日に予定されている。
争点は、元社員と現職社員の間に連絡があったかどうかを超え、どの情報が実際にAppleの営業秘密に当たるのか、OpenAIがそれを組織的に活用したのかへと移りつつある。公開された会話だけで、Appleの主張とOpenAIの反論のいずれが裁判所に受け入れられるかを判断するのは難しい。
一方で、今回の応酬によってAppleとOpenAIの関係がさらに悪化したことは明らかだ。今後の仮差し止め判断と本案審理では、メッセージや電子メールの法的な位置付けが中核証拠として扱われる見通しだ。