米銃撃事件を受け、充電中のEVが即時退避しにくい構造が安全面の論点となった(写真:Shutterstock)

米アイダホ州ツインフォールズで起きた銃撃事件を受け、急速充電中のEVがすぐに退避しにくい構造上の制約が、安全面の課題として改めて浮上している。充電中はコネクターが物理的にロックされるため、緊急時でも即座に発進できないケースがあるからだ。

EVメディアのElectrekなどが3日に報じたところによると、1日に男が新規開店したIn-N-Out Burgerの店舗と、近隣のビジターセンター駐車場で発砲した。現場映像では、スーパーチャージャーで充電中だったTesla車に向けて発砲があったとみられる様子も確認された。この事件では3人が死亡し、複数人が負傷した。

負傷者の中には、スーパーチャージャーで充電中だったタクシー運転手も含まれていた。命に別条はなかったが、その後も複数回の手術を受けていると伝えられている。

事件後、EVユーザーの間では、充電ケーブル接続中でも車両を発進させれば分離できるとするサードパーティー製アダプター「EVject」が代替策として急速に拡散した。別名「Escape Connector」とも呼ばれ、スーパーチャージャーのケーブルと充電ポートの間に装着し、車両が動き出すと機械的に分離する仕組みという。価格は299ドル。

X(旧Twitter)では事件後、数百人規模のTeslaオーナーが紹介コード付きで同製品を共有し、銃撃時の“解決策”として広めた。

ただ、EVjectは約2年前にTeslaが安全性を問題視して提訴していた製品と同一だ。Teslaは2024年、カリフォルニア州の裁判所にEVjectを提訴し、高電流充電を30分続けた後に表面温度が最大100度に達する可能性があることや、過熱保護の設計がないことを主張していた。

その後、EVject側は熱保護機能を備えた改良版を投入し、Teslaは訴えを取り下げた。今回の事件を機に脱出手段として注目を集めた一方、つい最近までTeslaと法廷で争っていた経緯のある製品を、注意書きなしに推奨するのは無理があるとの指摘も出ている。

焦点となっているのは、充電中にコネクターが物理的にロックされる点だ。通常、運転者が発進するには車両画面で充電ポートのロックを解除するか、手動の解除手順を踏む必要がある。ケーブルが外れるまで待たなければならず、数秒が生死を分ける場面では、その遅れ自体が弱点になり得る。

一方で、EVjectを根本的な解決策とみなすには限界があるとの見方もある。同製品が有効なのは、危険を即座に察知し、すぐにギアを入れて発進できる場合に限られる。突発的で混乱した攻撃の最中に、そうした判断と操作を確実に行うのは容易ではない。

脱出までの時間を数秒縮める補助手段としての意味はあるものの、299ドルのアダプターを無差別暴力への解決策として売り出すのは誇張だ、との評価もある。

こうした課題はTesla固有のものではない。NACS、CCS、J1772などの充電規格はいずれも、高電圧の通電中にアークの発生や不意の分離を防ぐため、ロック機構を前提としている。急速充電中のEV全般が同様の制約を抱えており、利用台数の多いスーパーチャージャー網で目立って見えているにすぎないというわけだ。

このため、業界が検討すべき対応は後付けアクセサリーではなく、車両と充電器そのものに組み込まれた緊急解除機能だとする主張が強まっている。運転席から操作できる標準搭載の緊急分離機能こそが現実的な解であり、車両と充電器の双方を統合的に設計できるTeslaであれば、電源遮断、ロック解除、車両の離脱までを単一の操作で実行できる仕組みを構築しやすいとの見方もある。

もっとも、こうした機能は特定ブランドに限るべきではなく、EVメーカーと充電事業者が安全規格の範囲内で緊急解除手順を標準化すべきだとの指摘も出ている。

実際に銃乱射事件に遭遇する可能性は極めて低く、この事件だけを理由にEV購入をためらう必要はないとの見解もある。ただ、銃撃が起きた場合には、車内にとどまること自体がかえって危険になり得る。充電中は車両を即座に移動しにくく、迅速な退避も難しいため、標的になりやすい可能性があるためだ。

その一方で、車外に出て人の多い店舗内へ移動できれば、助けを求めやすく、避難や遮蔽物への退避もしやすいとして注意を促している。

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