米財務省でデジタル資産政策を担ってきたタイラー・ウィリアムズ顧問が、上院の8月休会を前に退任する見通しとなった。暗号資産業界が重視する市場構造法案「クラリティ法案」は上院での審議日程が定まっておらず、政策のキーパーソン離脱が法案成立への逆風になるとの見方が広がっている。
Cryptopolitanが8月3日(現地時間)に報じたところによると、ウィリアムズは民間部門に戻る見通しだ。ウィリアムズは、スコット・ベセント財務長官が2025年2月に任命したデジタル資産担当顧問で、財務省内の暗号資産政策の方向性づくりに関与してきた。
在任中は、ホワイトハウスがまとめた163ページのデジタル資産報告書の作成に参加したほか、クラリティ法案を巡る議論や、連邦のビットコイン準備金に関する協議にも関わったという。昨年4月には、デジタル資産企業とサイバーセキュリティ情報を共有する財務省のプログラム発表にも関与したとされる。
今回の退任が注目されるのは、クラリティ法案の上院審議と時期が重なっているためだ。同法案は、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)のデジタル資産に対する監督権限を明確化する内容を柱とする。ブロックチェーン開発者が第三者のコードを利用する際、過度な法的責任を負わないようにする保護条項も盛り込んでいる。
暗号資産業界はクラリティ法案を、米国のデジタル資産規制を整備する中核法案と位置付けている。ただ、上院の8月休会は10日に始まる予定で、休会前に審議を進められる時間は限られている。
焦点の一つは、採決に必要な票を確保できるかどうかだ。共和党は上院で53議席を持つが、フィリバスターを封じる討論終結には60票が必要となる。法案可決には、民主党、または民主党系の無所属議員から少なくとも7票の上積みが欠かせない。
一方で、民主党の一部議員は倫理規定や暗号資産業界を巡る利益相反の問題を理由に反対姿勢を示している。エリザベス・ウォーレン上院議員はクラリティ法案への批判を続けており、審議停滞の一因となっている。
上院指導部も、具体的な審議日程はなお示していない。ジョン・スーン共和党上院院内総務は本会議採決に前向きな姿勢を示したものの、どの手続きで法案を上程するかは明らかにしていない。8月3日時点の本会議日程にも、クラリティ法案は含まれていない。
市場の見方も慎重になっている。Galaxy Researchは、クラリティ法案が年内に成立する可能性を従来の50%から30%に引き下げた。予測市場Polymarketでも、成立確率は年初の80%超から直近では約30%まで低下している。
業界内では、ワシントンで暗号資産政策を後押ししてきた勢力が弱まりつつあるとの懸念も出ている。暗号資産分野を専門とする記者のエリナー・テレットはソーシャルメディアで、「暗号資産の味方がワシントンを集団で去っているように感じる」と投稿。ウィリアムズに加え、ヘスター・ピアースSEC委員やシンシア・ルミス上院議員の状況にも言及した。
もっとも、金融界と暗号資産業界による働きかけは続いている。BlackRock、Fidelity、Goldman Sachsなどが参加する業界連合は、クラリティ法案成立の必要性を訴えており、Coinbaseも規制の明確化に向けて法案審議を進めるよう求めている。
政策中枢を担ってきた人材の離脱と、法案審議の遅れが同時に重なったことで、影響は小さくない。財務省のデジタル資産政策を主導してきた人物が抜けるなか、クラリティ法案を休会前に前進させられるかどうかが、米国の暗号資産規制の方向性を占う大きな焦点となっている。