捜査機関の内部権限が暗号資産の不正流用に結び付くリスクを浮き彫りにした事件となった。写真=Shutterstock

米連邦捜査局(FBI)の元監督特別捜査官が、捜査で把握した暗号資産ウォレットのアクセス情報を悪用し、約100万ドル(約1億5000万円)相当を不正に移したとして起訴された。捜査で得たウォレット情報と内部アクセス権限が結び付いた場合のリスクを示す事例として注目を集めている。

ブロックチェーンメディアのDecryptが3日(現地時間)に報じたところによると、起訴されたのはパトリック・スティーブン・ヤロック(Patrick Steven Yaroch)。罪状は、盗品の州際輸送と盗品受領だという。

検察によれば、ヤロックは2025年初めから2026年7月までFBIの防諜・情報部門に在籍していた。この間、捜査対象だった暗号資産ウォレットの資金を、自らが管理する口座に移したとみられている。当時は最高機密(Top Secret)のセキュリティクリアランスを保有していた。

捜査記録では、ヤロックは外国の敵対勢力に関連する捜査で確保されたウォレットのシードフレーズ(復元フレーズ)を、FBIのシステム経由で確認したとされる。そのフレーズを記憶して個人用ウォレットを作成し、約10回にわたって資金を移したという。

ヤロックは調べに対し、自身が移した暗号資産の価値は、その後の時価上昇も含めて約100万ドル相当に膨らんだと説明したと伝えられている。

検察は、逮捕直前の行動も重要な状況証拠として挙げている。告訴状によると、ヤロックは7月28日、司法省職員に対し、メッセンジャーアプリ「Signal」で個人的な問題について話したいと連絡した。

その後、FBI本部で面会した際には、自らの行為について崩れ落ちるように話し始めたと記録されているという。

家宅捜索では、ハードウェアウォレット「Trezor」と、手書きのシードフレーズのメモが見つかった。捜査当局はヤロック名義のKraken口座も確認しており、そこには約18万8570ドル(約2831万円)相当の資産が保有されていた。

内訳は、約16万6000ドル(約2490万円)の米ドルに加え、約1万8000ドル(約270万円)のUSDCなど。一部にはビットコインも含まれていたとされる。

今回の事件では、ヤロックが生成AIを利用していた痕跡も確認された。捜査当局は、同氏の携帯電話から多数のChatGPTとの対話履歴を押収したという。

その一つとして、5月28日にChatGPTへ、約100万ドルを「収益と利回りを最大化できるように」投資または活用する方法を尋ねていたことが挙げられている。さらに、100万ドルを保有する人物が米国を離れ、欧州連合(EU)加盟国で居住権や市民権を得る方法についても質問していたとされる。

検察は、検索履歴とAIとの対話履歴から、海外移住の可能性も検討していたとみている。記録には、トルコ経由時に米国人にビザが必要かどうかの確認や、ギリシャでの仕事、生活関連情報の検索が含まれていた。

また、ポルトガル関連の書類や家族旅行の計画資料も押収されたと報じられている。

ヤロックは、捜査官からポルトガル関連の委任状文書を確認したと告げられると、「ポルトガルに資金を移す計画はなかった」と答えたという。一方、検察は、海外移住と資金運用を並行して検討していた可能性があるとみている。

捜査当局は、ヤロックの供述、押収した暗号資産、デジタル記録、海外渡航関連資料などを踏まえ、7月31日時点で逮捕に足る相当な理由があると判断した。

今回の事件は、暗号資産捜査で得たウォレット情報が内部権限の下で悪用された場合、資産流出につながり得ることを示した。シードフレーズを把握した者が実質的な管理権限を握る暗号資産の特性を踏まえると、捜査機関における内部統制とアクセス管理の重要性が改めて問われそうだ。

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