中国が、現行のリチウムイオン電池では対応が難しいとされる車載電池の安全基準を導入したことで、代替技術としてナトリウムイオン電池(SIB)が改めて注目を集めている。全固体電池も有力候補だが量産には時間を要するため、先行して商用化しやすいSIBが当面の受け皿になるとの見方が広がっている。
7月には、中国の電気自動車向け電池安全基準「GB 38031-2025」が発効した。柱となるのは、熱暴走が起きた場合でも発火や爆発を防ぐことだ。従来は熱暴走時の警告信号を求める内容にとどまっていたが、今回は安全要件が大幅に引き上げられた。
中国工業情報化部が策定した同基準では、熱拡散試験の要件も厳格化された。炎が外部へ拡散しないことに加え、煙が乗員に有害な影響を及ぼさないことも求める。さらに、電池底部の耐衝撃試験、急速充電300回後の短絡試験、セル・モジュール・パック単位での熱安定性評価も要件に盛り込まれた。
業界では、こうした水準を既存のリチウムイオン技術だけで満たすのは容易ではないとの見方が強い。事実上、全固体電池並みの安全性が必要になるとの指摘もある。ただ、基準はすでに発効している一方で、本格対応が期待される全固体電池はまだ市場に出そろっていない。
韓国の電池セル大手3社が掲げる全固体電池の量産時期は、Samsung SDIが2026年下半期〜2027年、LGエネルギーソリューションとSK Onが2029年としている。
こうした移行期の空白を埋める技術として期待されているのがSIBだ。リチウムイオン電池の既存設備を活用して生産しやすく、商用化までの時間が比較的短い。火災リスクが低い点も強みとされる。氷点下20度でも初期容量の92%を維持できるとされ、サイクル寿命はBYDが1万回、CATLの「TENER SODIUM」は1万5000回水準を示している。
一方で、エネルギー密度は160〜175Wh/kgにとどまり、リチウムイオン電池には及ばない。このため、まずは高性能のプレミアムEVより、低価格帯や小型EVへの採用が先行するとみられる。CATLと共同開発した長安汽車の「ネボA06」は、2026年半ばの発売を控える事例として挙がっている。
SIBの特性は、エネルギー貯蔵システム(ESS)ではさらに生かしやすい。ESSはEVほど高いエネルギー密度を必要とせず、価格、安全性、寿命が競争力を左右するためだ。SNEリサーチは、SIB需要が2025年の3.6GWhから2035年には最大254.5GWhへと、10年間で約70倍に拡大すると予測している。ESS市場でのシェアは2030年に13.4%、2035年には最大35%に達し、金額ベースでは年間142億ドル規模になると見込む。
規制強化を追い風にSIB市場が立ち上がる中、中国勢の先行も鮮明になっている。CATLは7月、東欧のSolaproと2GWh規模の供給契約を結んだ。基準強化に合わせて輸送ルールの整備も進んでおり、UN 3551、3552、3558の専用番号が新設された。2026年1月1日からは、国際民間航空機関(ICAO)と国際航空運送協会(IATA)の技術指針に基づき、航空輸送時の充電状態(SoC)を30%以下に制限する規定も適用される。
国際標準化でも中国主導の流れが強まっている。国際電気標準会議(IEC)の蓄電池技術委員会(TC21)は昨年10月、中国・武漢で12V車載スタート・ストップ用SIBの国際標準に関する新規提案を審議し、中国企業主導の案件をPメンバー17カ国の全会一致で可決した。
現在はワーキングドラフト(WD)段階にあり、2026年下半期に委員会原案(CD)を提出し、2028年の公表を目指す。国際標準化機構(ISO)も今年1月の天津会合で「ISO/WD 25769」を議論した。
基準と標準の両面で中国発のルール形成が進む一方、韓国電池大手3社の対応には温度差がある。LGエネルギーソリューションは2030年以前の商用化を目標に、2026年中にパイロットラインを構築してサンプル生産に入る計画だ。Samsung SDIは、ESS向けに三元系とあわせてリン酸鉄リチウム(LFP)電池、ナトリウムイオン電池を適用する方針を示している。SK Onはナトリウムイオン電池を初期の研究開発段階と位置付け、LFPのコスト競争力を前面に、国内ESSの契約市場でシェア確保に注力している。
対応が遅れる背景には、材料面の課題もある。ナトリウムイオンはリチウムイオンより粒子が大きく、従来の黒鉛負極ではなくハードカーボン系負極材が必要になる。ナトリウム系正極材とあわせ、材料の国産化が課題として残る。
SNEリサーチは、こうした供給網と製造能力がすでに中国中心で構築されていると分析する。業界関係者は「技術そのもの以上に、標準化プロセスにどこまで関与できるかが重要だ。このままでは、中国が主導して作った規格を追認する構図が固定化しかねない」と指摘した。