ゲーム各社が、アプリストアを通さずにユーザーへ商品を直接販売する独自決済の整備を急いでいる。狙いは、プラットフォーム手数料を抑えて収益性を高めることに加え、決済データや顧客接点を自社で確保し、販促や運営の主導権を強めることにある。
業界関係者によると、Kraftonは7月23日、ゲーム向けコマース基盤を手がけるNeon Commerceへの戦略投資を完了した。Neon Commerceは、Andreessen Horowitz(a16z)やRenaissance Partnersが参加したシリーズAで、計1300万ドル(約19億5000万円)を調達している。
Neon Commerceは、ゲーム会社向けに自社運営のウェブストア、決済、各国の税務・規制対応を支援する。Kraftonはこれを活用し、決済インフラをゼロから内製する際の時間とコストを抑えつつ、グローバルユーザーとの直接的な接点を広げる考えだ。
こうした動きはKraftonに限らない。NC、Netmarble、Nexon、Smilegateなど大手各社も、PCランチャーやウェブストアを軸に、アプリストア外の決済導線を広げている。決済システムは単なる付加機能ではなく、収益性とユーザー基盤の管理に直結する中核インフラとして位置付けられつつある。
◆最大30%の手数料が重荷に
独自決済を広げる直接の要因は、アプリストアの手数料負担だ。アプリストアでアイテムや商品を販売すると、売上の最大30%をプラットフォーム事業者に支払う必要がある。売上が伸びるほど支払手数料も膨らむ構造だ。
一方、決済代行会社(PG)と連携した自社決済や公式ウェブストアの手数料率は、3〜8%程度にとどまる。決済経路をアプリストア外へ移すだけで、同じ売上でもゲーム会社に残る金額は大きく増える。
こうした流れは数値にも表れている。NetmarbleはPC同時展開やタイトル別ウェブストアの拡充を進めており、売上に対する支払手数料率は2020年の41.3%から直近では30.8%まで低下した。今年1〜3月期のプラットフォーム支払手数料は2009億ウォン(約221億円)で、前年同期比8.3%減だった。売上構成やプラットフォーム別の売上比率の変化など複数の要因はあるものの、独自決済比率の上昇も手数料負担の低下に寄与したとみられる。
新作開発費や人件費の負担が増すなか、独自決済は追加の売上成長がなくても支払手数料を減らし、収益性を改善できる手段として注目を集めている。
アプリストア事業者の手数料政策にも変化が出ている。Googleは、新規インストールのユーザー取引に15%、既存インストールのユーザー取引に20%のサービス手数料を適用し、外部ウェブ決済に対する追加手数料を免除する方針を打ち出した。6月30日に米国、欧州、英国で先行適用しており、韓国と日本にも12月31日までに導入する予定だ。
業界関係者は「Googleが手数料を引き下げても、アプリストアを経由する限り一定の負担は残る」としたうえで、「価格や特典を自社で直接設計できる点を踏まえると、独自決済の必要性が薄れることはない」と話した。
◆コスト削減からデータ活用へ
独自決済の狙いは、コスト削減だけではない。ゲーム会社は自社ウェブストアで発生する購買情報を直接取得でき、商品運営やマーケティングに生かせる。誰がどの商品を買ったのか、割引やポイントが決済にどのような影響を与えたのかを分析すれば、ユーザーごとの最適化プロモーションも可能になる。
各社は、手数料削減分の一部をユーザー還元に回し、自社チャネルへの移行を促している。NCは「Lineage M」「Lineage2M」などモバイルゲームのPC決済を「PURPLE」で支援し、簡便決済の割引も提供する。Netmarbleは「Solo Leveling: ARISE」のウェブストアで、決済額の10%を自社ポイントとして積み立てる仕組みを導入した。Nexonは「Nexon Plug」を通じて独自決済の利用者にリワードを付与し、Smilegateは「STOVE」と子会社のStovePayを基盤にPGライセンスを確保し、ポイント積立制度を運用している。
独自決済の拡大は、これまでアプリストア側が握ってきた取引主導権を、ゲーム会社が取り戻す流れともいえる。決済プロセスと購買情報を自社で管理できれば、商品販売、マーケティング、ユーザー管理の方針を外部プラットフォームに左右されずに運用できるためだ。
◆成否を分けるのはユーザー移行
もっとも、独自決済がすべてのゲーム会社に同じ効果をもたらすわけではない。ウェブストアを整備しても、ユーザーが従来のアプリストアではなく外部決済を選ばなければ、手数料削減効果は限定的にとどまる。知名度の高いIPとロイヤルティの高いユーザーを抱える大手は、公式コミュニティやPCランチャーを通じて誘導しやすい。一方で中小開発会社は、ユーザー獲得やマーケティングに加え、セキュリティ、返金、顧客対応まで自ら担う必要がある。
海外展開では、国ごとに異なる決済手段や通貨、税制、個人情報保護規制への対応も求められる。こうした参入障壁を下げる動きも出てきた。ゲーム会社はNeon Commerceのような専門企業や外部決済プラットフォームを活用し、インフラを自前で構築する代わりに運用負担を軽減する方向へ動いている。Nexthが6月に公開したD2Cウェブショッププラットフォーム「Cross Game Hub」もその一例で、開発人材が不足するゲーム会社でも、商品登録から決済、売上分析までを一括して運用できるよう支援する。
最終的に独自決済競争の成否を左右するのは、仕組みを用意したかどうかではなく、ユーザーを実際にその導線へ移せるかどうかだ。アプリストアを上回る特典と利便性、そしてセキュリティへの信頼を継続的に提供できるかが鍵になる。
別の業界関係者は「手数料削減の取り組みとして始まった独自決済の拡大は、いまやユーザーデータと決済接点を直接握る競争へと移っている」と指摘する。そのうえで「独自決済の仕組みを先に定着させた会社と、そうでない会社の差は今後さらに広がる」と話した。