低軌道衛星通信は、地上網が届きにくい場所を補完する次世代ネットワークとして注目を集めている。写真=Shutterstock

低軌道衛星通信が、地上の通信網を補完する次世代インフラとして存在感を高めている。海上や航空機、山間部、離島に加え、災害で地上設備が被災した場面でも活用が見込まれるためだ。一方で、端末コストや通信容量、軌道・周波数の確保など、商用化の拡大に向けた課題も多い。韓国政府は2035年までに独自技術による低軌道衛星通信網の構築を目指し、2030年までに約3000億ウォンを投じて試験衛星による検証を進める方針だ。

スマートフォンや家庭向けブロードバンドの普及で、多くの利用者は日常的に高速ネットワークを使えるようになった。ただ、陸地を離れた海上や上空、山間部、離島では依然として地上網が届きにくい。自然災害で基地局や有線網が損傷すれば、平時は通信可能な地域でも一気に不感地帯になりうる。

こうした通信の空白を宇宙から補うのが低軌道衛星通信だ。地上に基地局や光ファイバーを敷設する代わりに、小型衛星を地球に近い軌道へ多数投入し、通信ネットワークを構築する。地上設備が届きにくいエリアまで接続範囲を広げる「宇宙の基地局」ともいえる。

◆静止軌道より低遅延、「宇宙インターネット」が本格化

衛星通信そのものは新しい技術ではない。現在も静止軌道衛星は、放送送出や国際電話、気象観測など幅広い用途で使われている。静止軌道衛星は赤道上空約3万6000kmを地球の自転と同じ速度で周回するため、地上からは同じ位置にとどまって見え、広い範囲をカバーできる。

ただし、静止軌道衛星は地上との距離が長く、通信遅延が大きい。これに対し、低軌道衛星は地上約200〜2000kmを周回するため、電波の伝搬距離が短い。韓国電子通信研究院(ETRI)によると、低軌道衛星の往復遅延は約2〜27msで、静止軌道衛星の約477msを大きく下回る。

一方、低軌道では1機あたりのカバー範囲が狭く、衛星も高速で移動するため、同じ地域の上空に長時間とどまれない。このため、通信を途切れさせずに提供するには、数百〜数千機規模の衛星を高密度で配置する「衛星コンステレーション」が必要になる。1機が視野から外れると次の衛星が通信を引き継ぐ仕組みで、移動通信における基地局間のハンドオーバーに近い。

通信は、端末から衛星に送った信号を衛星が地上の通信設備へ中継する形が基本だ。最近では、衛星同士が直接データをやり取りする技術も活用され始めている。周囲に地上設備がない地域でも、複数の衛星を経由してインターネット接続を確保できるようになりつつある。

低軌道衛星通信が改めて注目される背景には、打ち上げコストの低下と小型衛星の量産化がある。過去にも低軌道衛星網の構築は試みられたが、製造費や打ち上げ費が巨額となり、採算確保が難しかった。近年は再使用型ロケットや衛星の量産技術が進み、1回の打ち上げで数十機を投入し、寿命を迎えた衛星を継続的に更新する事業モデルが現実味を帯びてきた。

代表例がSpaceXの「Starlink」だ。数千機の衛星を数百km上空に配置し、家庭や企業に加え、船舶や航空機向けにもインターネット接続を提供している。対抗勢力として注目されるのが英国の「Eutelsat OneWeb」で、600機超を運用し、企業や政府向けに加え、航空・海上通信市場を重点領域としている。

韓国市場でも受け入れは進んでいる。韓国科学技術情報通信部は前年5月、Starlink KoreaとSpaceXが結んだ越境供給協定のほか、Hanwha Systems・KT SATとEutelsat OneWebの各協定を承認した。Starlinkは同年12月、韓国で正式にサービスを開始した。

◆海上・航空・離島で用途拡大

当面、変化が最も早く表れそうなのは海上分野だ。陸上の基地局は海岸から離れるほど電波が届きにくくなるが、低軌道衛星通信を使えば、外洋を航行する船舶でもビデオ通話やオンラインコンテンツを利用しやすくなる。船会社にとっては、航海情報やエンジンの状態、貨物データを陸上の管制センターへリアルタイムで送る手段にもなる。

航空機向け通信も改善が期待される。海上や大陸間を高速で移動する機体でも、低軌道衛星網を使えば機内Wi-Fiの品質向上が見込める。今後、都市航空交通(UAM)やドローン配送市場が拡大すれば、地上網が届きにくい空域を補完する手段としても活用余地が広がる。

離島や山間部では、光ファイバーの代替・補完手段としての利用も想定される。利用者が衛星アンテナを設置する方法のほか、地域の基地局を衛星と接続する方式もある。基地局からスマートフォンまでは既存の移動通信網を使い、基地局から外部インターネットへ接続する区間のみを衛星で補えば、光ファイバー敷設の負担が大きい地域でも効率的に通信環境を整えられる。

災害対応でも有効だ。山火事や洪水で基地局の電力供給や有線網が途絶えた場合でも、携帯型の衛星アンテナと電源設備があれば仮設の通信網を構築できる。救助隊の位置情報や現場映像、被害状況を指揮本部へ送るほか、住民向けWi-Fiの提供などにも活用できる。

長期的には、専用アンテナを別途用意せず、スマートフォンが衛星と直接つながる「Direct to Device」の普及も見込まれる。初期段階では、不感地帯での緊急メッセージや位置情報の送信といった小容量サービスが中心になるとみられるが、技術の進展に伴い、音声通話や本格的なデータ通信へ広がる可能性がある。

◆地上網の代替ではなく補完、コストと容量が壁に

もっとも、低軌道衛星通信がすべての基地局や光ファイバーを置き換えるわけではない。人口が密集する都市部では、限られた衛星容量を多数の利用者で分け合う必要がある。建物や樹木で空が遮られれば、信号が弱くなるおそれもある。端末やアンテナのコスト、消費電力の面でも、地上網より不利になる場合がある。超高速・超低遅延が求められる都市部では、引き続き光通信や5G移動通信のほうが効率的だ。

技術面の難度も高い。端末は移動する衛星の位置を継続的に追跡しながら、衛星間の切り替えを繰り返さなければならない。衛星の高速移動に伴って生じる周波数変動への補正や、限られた周波数資源・通信容量をどう効率配分するかも重要な課題となる。

軌道と周波数の確保競争も激しさを増している。衛星数が急増すれば、衝突リスクや宇宙ごみ、電波干渉、天文観測への影響といった問題が拡大しかねない。海外事業者のネットワークを災害時や安全保障上の局面でも継続利用できるのかという論点もあり、低軌道衛星通信は通信インフラの自立性や国家安全保障にも関わるテーマになっている。

◆韓国は2035年に独自網、不感地帯の補完を加速

韓国政府は海外サービスの活用と並行し、主要技術の国産化も進める方針だ。2035年までに韓国独自技術による低軌道衛星通信網の構築を目指す。これに先立ち、2030年までに約3000億ウォンを投じて技術開発を進め、高度888kmに試験衛星2機を打ち上げて中核技術を検証する計画としている。

ただ、実際に独自ネットワークを構築するまでのハードルは高い。数百機規模の衛星を継続的に打ち上げる必要があるうえ、地上局、利用者端末、衛星間通信技術を一体で整備しなければならない。巨額の投資負担に加え、周波数・軌道の確保、民間事業者の参画を促す事業モデルの設計も課題となる。韓国科学技術情報通信部は、第1段階の目標として低軌道衛星200機以上の打ち上げを掲げている。

韓国型の低軌道衛星通信網が整備されたとしても、その役割は地上網の全面代替ではなく、不感地帯を補うことにあるとみられる。都市部では光ファイバーと移動通信網が中心となり、海上や空域、山間部、災害現場では衛星網が接続を補完する構図だ。

商用化も、既存の通信網を整備しにくい分野から先に進む公算が大きい。まずは船舶・航空機向けインターネットや山間部・離島、災害現場で活用が広がり、その後にスマートフォンの直接接続など一般利用者向けサービスへと裾野が広がっていく見通しだ。

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