ドナルド・トランプ米大統領(写真=米ホワイトハウス)

トランプ政権が、米企業による中国製オープンソースAIモデルの利用を制限する方策の検討に入ったと報じられた。中国勢の低コストAIモデルが性能と価格競争力を武器に採用を広げる中、安全保障と産業競争力の両面から警戒を強めている。

7月20日付のCryptopolitanによると、米政府内では中国のAI研究機関やオープンソースモデルへのアクセスを制限する複数の案が議論されている。

直接のきっかけとして挙がっているのが、中国のMoonshot AIが公開した「Kimi K3」だ。Kimi K3は、上海で開かれる世界人工知能大会(WAIC)の日程に合わせて18日に公開された。

Moonshot AIは、Kimi K3について、AnthropicのFableやOpenAIのChatGPTに匹敵する性能を、より低いコストで提供できると主張している。コスト削減を理由に中国製AIモデルを採用する米企業が増え、ワシントンの警戒感も強まっているとの見方が出ている。

米政府内では昨年から、中国のAI研究機関を商務省のエンティティ・リストに追加する案が検討されてきたという。掲載されれば、米企業は政府の許可なしに当該企業・機関と取引したり、関連技術にアクセスしたりすることが難しくなる。

同じ時期には、米国家安全保障局(NSA)とホワイトハウスの国家サイバー担当部門が、企業に対して中国AI研究機関の利用に慎重になるよう勧告したこともあった。米企業が中国AIモデルを自社サーバーでホスティングする場合、セキュリティ保証や侵害発生時の責任を義務付ける大統領令も議論されたという。ただ当時は、政府規制がAI開発の革新を損なうとの懸念から実施には至らなかった。

ただ、足元ではホワイトハウス内の空気が変わりつつあるとの見方が出ている。政府介入に否定的だったホワイトハウス顧問のスリラム・クリシュナンが退いた後、安全保障強化を求める関係者の影響力が強まったという。

現在浮上しているのは、全面禁止ではなく間接的な制限策だ。公式な禁止措置を打ち出さなくても、連邦政府の調達規則の適用や、中国AI研究機関のエンティティ・リスト追加、中国モデルを利用する米企業への公的な圧力によって、同様の効果を狙えると米政府はみているとされる。

中国AIモデルにバックドアやセキュリティ上の脆弱性がある可能性を前面に押し出す案も議論されている。米AI開発企業に自社のオープンソースモデル強化を促し、中国モデルへの依存を下げる狙いがある。

一方、こうした政策が米大手AI企業に有利に働くとの批判もある。ホワイトハウス外部のAI顧問、デイビッド・サックスはX(旧Twitter)で、AI政策が重大な転換点を迎えていると評価した。

サックスは、モデル売上高を基準に事実上の複占を築いたクローズド型AI研究機関が、政府政策を使ってオープンソースの競合を排除しようとしていると主張した。規制が最大手のAI企業だけを利する形になってはならないとの考えを示した。

中国AIモデルの広がりは、利用指標にも表れている。複数のAIモデルを接続して提供するプラットフォームのOpenRouterでは、中国製モデルが処理したルーティングトークンのトラフィック比率が46.4%を占めた。米国製モデルは35.7%だった。2026年7月時点では、DeepSeek単独のシェアが17.6%に達した。

Hugging Faceが3月に公表した調査でも、中国製オープンソースAIモデルは、オープンソースモデル全体のダウンロード数の41%を占めた。

企業による導入事例も出ている。スタートアップのLindyはAnthropicのモデルからDeepSeek V4へ切り替えたほか、AirbnbとSiemensもコスト削減を目的にAlibabaとDeepSeekのAIシステムを試験していると報じられている。

米国の対中AI輸出規制が、結果的に中国モデルの拡大を後押ししたとの分析もある。米国が2026年初め、AnthropicのClaude Mythos 5やFable 5など自国の先端AIモデルの海外輸出を制限し、その空白を中国や他国のモデルが埋めたという指摘だ。

価格競争力も、中国AIが広がる大きな要因とされる。中国では、米国より最大で約10倍安いコストで計算資源を利用できると伝えられている。品質面に一定の差があっても、コスト面から企業が中国モデルを選ぶ誘因は大きいとの評価だ。

企業価値の差も大きい。OpenAIとAnthropicは、それぞれ約8520億ドルと約9650億ドルの企業価値を背景に、年内の上場を進めている。一方、Kimi K3を開発したMoonshot AIの企業価値は約300億ドルとされ、今後6カ月以内のIPOを検討していると報じられている。

米政府による中国オープンソースAIの利用制限の検討は、単なるセキュリティ問題にとどまらない。グローバルAI市場の競争構図そのものに関わる動きであり、実際にどの規制手段が選ばれるかによって、米企業のモデル選択、中国AI企業の米市場での浸透、オープンソースの位置付けに影響が及ぶ可能性がある。

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