宇宙空間にデータセンターを配備し、AIの推論処理を担わせる「宇宙データセンター」構想を巡り、業界ではなお慎重な見方が強い。サム・アルトマン氏とイーロン・マスク氏の応酬をきっかけに構想は改めて注目を集めたが、実用化には打ち上げコストの大幅な低下と衛星の量産体制構築が不可欠だとの見方が広がっている。
13日、米ITメディアのTechCrunchによると、マスク氏がアルトマン氏を「詐欺師」と批判したのに対し、アルトマン氏はSNSで、「公開市場の投資家に短期的な宇宙データセンター構想を売り込んでいるのは、むしろあなたの方だ」と応酬した。
論点は、宇宙空間にデータセンターを打ち上げてAIの推論処理を担う事業が、実際にいつ成立し得るかにある。SpaceXは軌道上データセンターのクラスターを打ち上げる構想を掲げており、強気の見方では、こうした設備が同社のAIモデルを支えるだけでなく、新たな軌道上クラウドとして機能する可能性もあるとされる。こうした期待は、SpaceXの企業価値2兆ドル(300兆円)を支える材料の一つともみられている。
一方で、業界関係者の見方は総じて慎重だ。宇宙データセンター関連のスタートアップ創業者や、Googleの軌道コンピューティングのプロジェクトチーム、関連する試算に携わったエンジニアらは、まずコスト構造そのものが変わる必要があるとみている。より安価なロケットと、高性能衛星を低コストで大量生産できる体制が整わない限り、市場に大きなインパクトを与えるのは難しいという。
マスク氏が反論の材料として挙げ得るのが、SpaceXの新型大型ロケット「Starship」だ。Starshipは早ければ16日に13回目の試験飛行に臨む見通しで、繰り返し運用の段階に入れば、宇宙データセンターでも採算が見込めるとの期待がある。
ただ、試験飛行が成功したとしても、直ちに事業性が確立するわけではないとの指摘は多い。今回の飛行で機体2段の回収に成功したとしても、実運用可能な再使用体制を確立するまでには、なお数年を要する可能性が高い。その間、SpaceXはNASA関連任務や、自社のStarlinkネットワーク拡大を優先する公算が大きい。
SpaceXはIPOに向けたロードショーでも、Starshipが短期間で完全再使用の段階に到達できない可能性を認めている。打ち上げのたびに2段目を廃棄せざるを得ない場合、宇宙データセンターの採算性は大きく損なわれる。これに対し、マスク氏は「来年から飛行を始める」と反論したが、実際の争点は来年に初回打ち上げがあるかどうかではない。大規模な打ち上げと製造を、いつ実行可能な水準まで持ち込めるかが問われている。
結局のところ、焦点は技術デモではなく拡張性にある。SpaceXが来年、高速データ処理装置を搭載した衛星を打ち上げたとしても、それを大量生産し、反復的な打ち上げを通じて事業として成立させられるかは別問題だ。業界では、宇宙データセンターが実質的な市場として定着する時期は2030年代になるとの見方が出ている。
マスク氏はSNSで、「来年から飛ばし始める。許可が下りれば見学に来てもいい。オープンソースのAI慈善団体を盗んだ後、今度はAppleの携帯電話技術もすべて盗んだ。次は何をやるのか」といった趣旨の投稿も行った。