写真=Shutterstock

Boston Collegeの退職研究センターが公表した論文で、ChatGPT公開後、AIの影響を受けやすい職種に就く55歳以上の労働者で、離職や失業への移行が増える傾向が確認された。AIによる雇用への影響は若年層中心に語られがちだが、高齢労働者の就業継続や退職時期にも影響が及ぶ可能性が浮き彫りになった。

米CNBCが7月13日(現地時間)に報じた。論文では、ChatGPT公開後、高齢労働者が失業や自発的退職を含め、労働市場から退出する可能性がやや高まったと分析している。

著者のジェフリー・サンゼンバハー教授(経済学)によると、55歳以上の労働者はAI関連度の高い職種で、より頻繁に職を離れる傾向がみられた。統計的にも有意な変化で、一部職種では影響が比較的大きかったとしている。

研究では、AIが高齢労働者の就業継続期間に影響する経路として3つを挙げた。1つは、自動化によって既存業務が代替され、失業や労働市場からの退出につながるケース。もう1つは、AI導入への対応負担から、新技術との接点が少ない仕事に移る、あるいは退職を選ぶケースだ。

一方で、生成AIが生産性を高め、賃金上昇や業務の高度化につながれば、就業期間がむしろ長くなる可能性もあるとした。

実際の傾向は、ChatGPT公開前後で分かれた。公開前は、AIの影響を受けやすい職務に就く高齢労働者の方が職を離れる可能性は有意に低かった。しかし公開後は、離職や失業への移行の可能性がやや上昇した。

また研究は、AIの変化に対して脆弱な高齢労働者の特徴にも言及した。そうした層は大卒比率が高く、AI関連度の低い職種の労働者より所得水準も高い傾向があった。低賃金で肉体労働の比率が高い職種ほど早く退職するという従来の見方とは異なる結果だという。

この点は、退職年齢を巡る議論とも重なる。米社会保障制度の信託基金は、最新の年次報告書で2032年末にも枯渇する可能性があると示された。

政策当局が退職年齢の引き上げなど制度改革を検討する可能性がある中、サンゼンバハー教授は、将来的に給付削減が起きた場合、高所得層ほど打撃が大きくなる可能性が高いと指摘した。そうした層ほど長く働く必要がある一方で、AIが実務遂行能力に影響する可能性もあるためだ。

高齢労働者のAI受容は、若年層に比べて遅い傾向がある。米国退職者協会(AARP)の調査では、50歳以上の回答者の24%がAIを自分の仕事への脅威と捉えた一方、19%は機会と評価した。37%は、脅威であると同時に機会でもあると答えた。

AARPとLinkedInの調査では、高齢労働者は協業、判断、リーダーシップなど、AIが代替しにくい能力を要する役割に比較的多く就いていることも分かった。

こうした職務特性も重要な変数となる。高齢労働者の仕事には、協業や判断、リーダーシップといった、AIが容易に置き換えにくい能力を求めるものが多い。サンゼンバハー教授は、高齢層のAI導入ペースは若年層より遅いものの、対応が手遅れというわけではないとの見方を示した。

求人・求職プラットフォームMonsterのキャリア専門家、ビッキー・サレミ氏も、これまでAIを使ってこなかった高齢の専門職でも、今から対応は可能だと話す。まずは雇用主がすでに導入しているAIツールを学ぶことが出発点になり得るとし、そうしたツールは、より深い思考を要する業務に時間を振り向ける助けになると説明した。

その上で、現職であれ転職活動であれ、コミュニケーション力、関係構築力、問題解決力といったソフトスキルを、これまで以上に明確に示すべきだと助言した。

今回の研究は、AIが若手社員の雇用だけでなく、高齢層のキャリア継続期間や退職時期にも影響し得ることを示している。労働市場や退職制度を巡る政策論議でも、AI要因をどう織り込むかが主要な論点になり得そうだ。

キーワード

#AI #生成AI #ChatGPT #高齢労働者 #雇用 #退職 #AARP
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.