KTが、企業向けAI転換(AX)支援を軸とするB2B強化に踏み込んだ。朴允永代表の就任100日を迎え、従来前面に出してきた自社AIモデルや海外ビッグテックとの協業色よりも、企業のAI導入・運用を支える「AXプラットフォームカンパニー」としての位置付けを鮮明にしている。
朴代表は3月31日に就任し、7月9日に就任100日を迎えた。KTで30年以上のキャリアを持ち、B2B分野に長く携わってきた人物として知られる。
就任後は、通信事業の現場重視と実行力を打ち出し、役員級組織を約30%縮小した。あわせて、情報セキュリティとネットワーク関連組織も再整備し、事業体質の見直しを進めている。
通信業界関係者は「朴代表は、現場で実際に売り上げにつながるかどうかを重視する経営者として知られている。就任後にB2B事業の実行力強化を急いでいるのも、その経営姿勢を反映した動きだ」と話す。
AXを前面に、事業の重心をB2Bへ
KTは最近開いた記者懇談会で、今後、情報保護・IT革新と次世代ネットワークに12兆ウォン、AIデータセンター(AIDC)と海底ケーブルに6兆ウォンを投資すると明らかにした。経営資源の重点配分先を、AXとB2Bに移した形だ。
全国では、計1GW規模のAIDCを追加で確保する計画も示した。あわせて、企業が必要とするAIモデルとコンピューティング資源を、コストと性能に応じて選択できるよう支援する「トークンファクトリー」を新たな成長事業として打ち出した。
トークンファクトリーは、複数のAIモデルとインフラを組み合わせ、顧客ごとのトークン利用に最適な構成を提示し、利用量とコストを管理する構想だ。AI活用の拡大に伴って企業のトークン費用が膨らむ中、KTはネットワーク、クラウド、データセンターを一体で提供することで、総合ソリューション事業者としての立ち位置を強める考えだ。
焦点は、KTがAIモデルそのものの競争よりも、企業がAIを導入・運用するためのインフラとソリューションを一体で提供する方向へ軸足を移している点にある。朴代表がこれまでKTの企業事業部門を率い、公共、金融、大企業顧客を担当してきた経験も、この戦略判断に影響したとの見方がある。
クラウド業界関係者は「企業がAIソリューションを導入する際は、費用だけでなく、セキュリティ、データの保存場所、既存システムとの連携性まで含めて判断する」としたうえで、「KTはクラウドとデータセンターの基盤を持つだけに、自社モデルの販売よりB2B市場の開拓の方が収益化につながる可能性がある」と分析した。
前体制との違い鮮明、自社AIは企業特化へ
こうした路線は、金英燮前代表時代との違いとしても受け止められている。前体制では、通信にITとAIを組み合わせた「AICTカンパニー」を掲げ、自社の超大型AIモデル「ミドゥム」とMicrosoftとの戦略的協業を成長戦略の柱に据えていた。
ただ、市場の反応は期待ほど速くなかった。自社モデルは技術力を示す意味合いはあったものの、代表的なサービスや大きな売上高に結び付いた事例は明確ではなかったとされる。
Microsoftとの協業についても、大規模な投資計画や長期契約の枠組みが注目を集めた一方、実際の顧客獲得や収益創出の成果が見えにくいとの指摘が続いていた。
グローバルビッグテックと国内AI企業がモデル性能や価格を競う中、通信会社が汎用大規模言語モデルの競争に大量の資源を投じることの効率性にも疑問が強まっていた。実際、KTは科学技術情報通信部が進める「独自AIファウンデーションモデル」プロジェクトの精鋭チーム選抜で選ばれず、自社モデルの競争力で出遅れているとの評価を受けたこともある。
一方で、業界では朴允永体制のKTについて、自社AIを捨てたのではなく、モデル単体の競争から、企業の業務に適用できるAIコンサルティングとインフラ事業へ重点を移したとみている。
KTは最近、320億パラメータ規模の企業向けモデル「ミドゥム K 2.5 プロ」でAI信頼性認証を取得した。自社モデルの開発は続けつつ、その活用先をB2B市場に合わせ、企業顧客のAX支援を強調している。
Microsoftとの協業も、短期で見直すのは難しいとの見方が強い。業界関係者は「Microsoftとの協業はすでに投資と契約が進んでおり、簡単に引き返せる案件ではない。最終的には、どれだけ多くの事業事例と売上高を生み出せるかが成否を左右する」と話した。
KTは記者懇談会で、既存のMicrosoftに加え、Google、Palantir TechnologiesなどのグローバルAI企業や、Upstage、Rebellions、Saltluxなど国内の有力AI企業との協業を拡大する方針も示した。特定企業や特定モデルに依存せず、多様なAIモデルとインフラを組み合わせて顧客に提供する体制へと広げる考えだ。
差別化はなお課題
もっとも、競合との差別化は今後の課題として残る。SK TelecomはNVIDIAなどのグローバル企業と連携し、AI半導体からデータセンター、クラウドまでをつなぐ「AIフルスタック」戦略でインフラ拡張を急ぐ。LG Uplusも「ixi-O」をはじめとする顧客接点のAIサービスやエージェント事業を前面に出している。
KTは、B2B顧客基盤に加え、ネットワーク、クラウド、データセンターをあわせ持つ点を強みとして訴求する。ただ、「AXプラットフォームカンパニー」が既存のシステムインテグレーション(SI)やクラウド事業と何が異なるのかについては、具体的な商品や導入事例を通じて示す必要があるとの指摘もある。
業界関係者は「AXプラットフォームカンパニーとして、目に見える成果を公表できて初めて、本当の意味での体質転換に成功したと評価されるだろう」と述べた。