米海底居住施設開発会社のDEEPは、フロリダキーズ国立海洋保護区の水深17メートルに試験用海底居住施設「Vanguard」を設置し、初の試験運用を開始した。研究チームは数日間にわたり海底に滞在し、科学調査と長期滞在の可能性を検証する。
7月10日付のGIGAZINEによると、DEEPは4人の試験クルーをVanguardに参加させ、海底居住環境や運用体制を点検する。今回の任務は、将来の長期海底居住インフラ整備に向けた第一歩となる。
Vanguardは、科学研究のほか、環境モニタリングや専門ダイバーの訓練、宇宙飛行士訓練など幅広い用途を想定して設計された。DEEPは将来的に、大陸棚の各地へ半永久的に運用できる海底居住施設を整備する構想を掲げている。
初回の試験任務には、DEEPの科学研究責任者ドン・カナギスも参加する。カナギスは、極限環境での人体反応、特に脳や神経系への影響を研究してきた専門家で、米航空宇宙局(NASA)の海底居住プロジェクト「NEEMO 21」に参加した経験を持つ。
海底居住施設が注目される背景には、海底と同じ圧力環境のまま試料を扱える研究環境がある。深海で採取した生物や試料は、水面へ運ぶ過程で急激な圧力変化にさらされ、分子や細胞の性質が変化する可能性があるためだ。
カナギスは、海底と同一の圧力環境で試料を分析できれば、これまで把握が難しかった特性の解明につながり、深海試料をほぼリアルタイムで分析する新たな研究手法が可能になると説明した。
施設の構造は大型の減圧チャンバーに近い。クルーは小型潜水艇で施設に到着した後、周囲の水圧と同じ圧力環境のまま内部に入る。その後、内部環境を段階的に減圧し、長時間滞在できる状態を整える。仕組みとしては、飽和潜水と同じ考え方を取り入れた方式だ。
減圧が完了すると、クルーは施設下部の「ムーンプール(Moon Pool)」から外海に出て作業できる。空気供給装置と生命維持ケーブルを接続したまま、一般的なスキューバ潜水より大幅に長い数時間の海底活動が可能になるよう設計されている。
運用面では、海上と海底をつなぐシステムを採用した。海上ブイに搭載した装置が施設へ電力と空気を供給し、衛星通信を通じて陸上拠点との24時間連絡を維持する。施設内には淡水供給設備も備える。
DEEPは用途を科学研究に限定していない。今後は、石油・ガスの海洋プラント支援、防衛産業、水中レジャーなど、さまざまな産業分野への展開も検討している。プロジェクトには関連産業の企業も参加しているという。
長期的には、研究者にとどまらず一般層にも海底居住体験を広げる考えも示した。カナギスは、芸術家や歴史学者、学生、教育者に加え、政治家も海底での生活を体験する必要があると指摘する。海中環境を直接体験することが、海洋生態系への理解を深める助けになるという。
今回の試験運用は、海底居住施設が研究や産業の現場で実際に活用できるかを見極める初期段階に当たる。DEEPは、Vanguardが長時間滞在と継続的な海底任務を安定して支えられるかを確認した上で、次世代の海底居住インフラ開発を加速する方針だ。