裁判所のセキュリティや個人情報保護への懸念を背景に、ニューヨーク州はスマートグラスの持ち込みを禁止する。写真=Shutterstock

米ニューヨーク州は7月20日から、州内の全裁判所でスマートグラスの持ち込みを禁止する。対象は州内の全裁判所(計1240カ所)で、来訪者だけでなく弁護士や職員にも適用する。米ITメディアのEngadgetが9日付で報じた。

禁止の対象となるのは、カメラやマイクを備えた眼鏡型端末やヘッドウェア型機器。度付きレンズ付きのスマートグラスも例外ではない。裁判所側は来訪者に対し、通常の眼鏡を別に持参するよう案内している。

対象施設は州裁判所、郡裁判所、市裁判所、町裁判所、村裁判所など計1240カ所に及ぶ。ニューヨーク州が州内の全裁判所に一律で適用するのは初めてとされる。ウィスコンシン州とペンシルベニア州でも、一部の裁判所ではすでに持ち込みを禁じている。

今回の措置の狙いは、法廷内での隠し撮りを防ぐことにある。ニューヨーク州の裁判所規定では、開廷中かどうかを問わず、法廷や事務室、廊下など庁舎内での写真・動画撮影、録音、放送を禁止している。規定には「写真、フィルムまたはビデオ撮影、オーディオ録音、放送またはテレビ放送は、いかなる場合も禁止される」と明記されている。

スマートグラスは、スマートフォンやカメラを手に持ち上げることなく撮影を始められるため、法廷内のルールを執行しにくくする。通常は撮影中を示す表示灯が点灯・点滅するが、利用者がこれを無効化したり改造したりできる可能性も懸念材料となっていた。ニューヨーク州の裁判所は、そうした改造の有無にかかわらず、端末そのものの持ち込みを認めない方針を取る。

この基準は来訪者だけでなく、弁護士や裁判所職員にも同様に適用される。スマートグラスを装着している場合は、入館前に裁判所の警備担当者へ預ける必要がある。

背景には、今年2月の公開法廷での出来事もあるとみられる。Metaのマーク・ザッカーバーグCEOが、SNS中毒に関連する陪審裁判に出廷した際、同行者の一部がMeta Ray-Banを着用して入廷した。報道によると、判事は当該機器で法廷手続きを録画しないよう警告したという。陪審員が撮影されたり、身元を特定されたりする可能性を懸念したためだ。

Metaは、自社のスマートグラスについて、撮影表示灯が覆われたことをシステムが検知すると写真や動画を撮影できない設計だと説明している。さらに、表示灯の物理的な損傷や取り外しを検知した場合には、カメラ機能を無効化するアップデートも提供しているとした。ただ、ニューヨーク州の裁判所は、そうした対策の有無にかかわらず持ち込み自体を認めない。

スマートグラスを巡る制限は、裁判所以外にも広がっている。Royal Caribbeanは今年、一部の船内エリアでスマートグラスを禁止した。MSC Cruisesも昨年、プライバシー保護への懸念を理由に一部制限を導入している。イリノイ州議会でも、注意散漫運転の抑止策として、運転中の使用禁止機器リストにスマートグラスを加える案が検討されている。

ニューヨーク州の全面禁止は、スマートグラスによるプライバシー侵害や隠し撮りへの懸念が、公共空間での規制強化に波及していることを示す動きといえそうだ。とりわけ裁判所のように録音・録画の規制が厳格な空間では、機能制限よりも持ち込みそのものを管理する方向に制度運用が傾きつつある。

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