電池産業で、半導体に似た分業体制が広がっている。技術を握る欧米企業が材料設計や知的財産(IP)の確保に注力し、量産は製造インフラを持つアジア企業が受託する構図だ。半導体でファブレスとファウンドリが分かれたように、電池でも受託生産を担う「電池ファウンドリ」が新たな事業モデルとして浮上している。
業界によると、欧米企業は次世代の化学組成設計やIPの確保に軸足を移す一方、量産は熟練した工程運営と製造設備を持つアジア勢が担う分業が定着しつつある。
こうした分業は、設計側と製造側の思惑が一致した結果でもある。設計に強みを持つ企業は、自前で工場を建設せずに市場参入しやすくなる。製造側も、確保した生産ラインを複数顧客の案件で埋めることで稼働率を高められる。半導体でファブレスが設計競争を担い、ファウンドリが規模の経済でコストを下げてきたのと同様に、電池でも設計と製造がそれぞれの強みに集中する構造が固まり始めている。
背景には、欧米の製造競争力の低下がある。欧州連合(EU)共同研究センター(JRC)の報告書は、EUが原材料調達の制約や高いエネルギーコスト、人件費などを抱え、電池の研究開発から製造までのサプライチェーン全体で、アジアに対抗できる独自の製造優位を確立できていないと評価した。
米国も事情は大きく変わらない。米戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書は、米国内で電池セル生産の現地化は進んでいるものの、中国を中心とするアジアの電池エコシステムと完全に切り離すことは難しいと指摘したという。
分業を加速させた直接の要因は、自前工場建設の限界だ。大規模ギガファクトリーの建設・運営には巨額の投資が必要なうえ、許認可対応や熟練人材の確保も重い負担となる。結果として、歩留まりの安定化に苦戦しやすい。スウェーデンのNorthvoltの破綻は、その象徴的な事例と受け止められている。
その後、業界では、コアとなる素材や設計技術に集中し、製造は外部に委ねるアセットライト戦略が広がった。実績のあるアジアの量産インフラを活用すれば、工場建設にかかる時間を短縮でき、生産コストの抑制にもつながるとの見方が出ている。
米国の規制環境もこの流れを後押ししている。国防授権法(NDAA)とインフレ抑制法(IRA)により、中国などFEOCのバリューチェーンにつながる電池の排除圧力が強まっているためだ。
このため米企業は、中国の工場を直接使うのではなく、韓国や東南アジアなど中国以外のアジアメーカーが持つ遊休設備をファウンドリとして活用する迂回策を模索していると、業界は説明する。
電池材料と技術の多様化も、分業を押し進める要因になっている。従来の三元系(NMC)中心から、リン酸鉄リチウム(LFP)、リチウムマンガンリッチ(LMR)、ナトリウムイオンなど複数の化学系が台頭し、1社で全製品を一貫して内製することが難しくなっているためだ。
主力製品は内製化しつつ、新素材や非主力技術は外部生産を活用する動きも出ている。開発スピードを重視する大手電池メーカーでも、開発段階からファウンドリを使うケースがあるという。ロボット向け電池やナトリウムイオン、LMR関連材料の分野では、受託生産需要が増えているとされる。
収益性と歩留まりの安定が市場形成のカギ
電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵システム(ESS)に加え、ロボット、鉱山、農機、建設機械へと電動化の裾野が広がり、多品種少量の需要も拡大している。こうした少量案件やカスタム品は、大手メーカーが自社ラインで対応すると採算を取りにくく、専門の受託企業に委ねた方が効率的との判断がある。
EV需要の鈍化が長引いたことで増えた遊休設備も、受託生産需要との利害が一致する要素になっている。
こうした流れは、韓国企業と欧州企業の協業にも表れている。韓国の電極ファウンドリ企業JRエネルギーソリューションはこのほど、「InterBattery 2026」で、ノルウェーの電池企業Morrow Batteriesと欧州サプライチェーン構築に向けた業務提携の覚書(MOU)を締結した。
JRエネルギーソリューションの電極ファウンドリ能力と、Morrow Batteriesの製造インフラ、LFPおよびリチウムニッケルマンガン酸化物(LNMO)セル技術を組み合わせ、ノルウェー工場を欧州の製造ハブに位置付ける構想だ。歩留まりと稼働率の改善に課題を抱えていた欧州メーカーと、受託生産の経験を持つ韓国企業の思惑が一致した形だという。
JRエネルギーソリューションはセミナーで、電池ファウンドリ市場が30兆ウォン超の規模に成長するとの独自試算も示した。
もっとも、ファウンドリ化の広がりは、実際の受託量がどの程度のペースで増えるかに左右される。多品種少量の需要が想定通り拡大し、大手電池メーカーの間で開発段階から外部委託を活用する動きが定着すれば、電極やセル組み立てなど後工程を担うファウンドリ企業の事業機会も広がりそうだ。
業界関係者は「受託生産は収益性を確保し、歩留まりを安定させられるかが重要だ」と話している。