写真=AIの雇用影響は「消滅」より「再配置」が中心との見方

Goldman Sachsは、AIの普及により米国で約1500万人の労働者が現在の職務から別の職種へ移る可能性があるとの見方を示した。影響は雇用の一方的な消失というより、労働市場内での再配置として表れる公算が大きいとしている。

7月3日付のBusiness Insiderによると、Goldman Sachsリサーチでグローバル・エコノミストチームを率いるジョセフ・ブリッグス氏はポッドキャストで、AI導入の影響を受けるのは米労働市場の約9%に当たるとの試算を示した。同氏は「9%は約1500万人に相当する」と述べ、1990年代後半から2000年代初頭の技術革新期に起きた労働市場の再編に匹敵する規模だと説明した。

ブリッグス氏は、この数字がそのまま雇用の消失を意味するわけではないと強調した。示しているのは、現在の職務を離れた人材が別の分野へ移る規模であり、焦点は失業ではなく再配置にあるという。

同氏によれば、AI活用が先行する分野ではすでに変化が出始めている。テクノロジー、経営コンサルティング、グラフィックデザインなどでは、AIが一部業務を代替したことで、新規採用の伸びが月1万~1万5000件分ほど押し下げられたと推計した。AIの影響は、既存の労働者を直接置き換えるよりも、新規採用需要を鈍らせる形で表れているという。

一方でブリッグス氏は、技術進歩は長期的にみれば新たな雇用を生み出す可能性のほうが大きいとの見方も示した。過去80年間に増加した雇用の約85%は、技術進歩によって新たに生まれた職務だったとし、AIも同じ流れをたどる可能性が高いと述べた。

その根拠として、米労働市場の高い流動性も挙げた。米国では毎年、約3000万件の雇用が新たに生まれる一方で、約2900万件が失われるという。こうした労働移動が活発な市場では、新規雇用の創出ペースが従来より5%高まるだけでも、AIの影響で移動する人材の大半を吸収できると分析した。

これに対し、AIの実際の普及ペースは想定より緩やかになる可能性があるとの見方も出ている。同じポッドキャストに出演したマサチューセッツ工科大学(MIT)のニール・トンプソン教授は、AIの性能と実際の産業導入は別問題だと指摘した。業務代替にはデータへのアクセス権限や個人情報保護規制、運用コストなど現実的な条件を満たす必要があり、医療のように規制の厳しい業界では導入が制約を受ける可能性があると説明した。

また同教授は、多くの職務は丸ごと消えるのではなく、一部の業務だけが自動化される可能性が高いと述べた。衛星測位システム(GPS)がタクシー運転手の経路探索を代替しても、運転手の数自体は増えた事例を挙げ、「AIは労働者をのみ込む巨大な波というより、事前に備えられる満ち潮に近い」と語った。

今回の見方は、足元で鈍化している米国の雇用情勢とも重なる。6月の新規雇用は5万7000件増にとどまり、市場予想を大きく下回った。4月と5月の雇用統計も合計7万4000件下方修正された。失業率は4.2%だったが、労働参加率の低下が一部影響したとの分析も出ている。

専門家の間では、AIが労働市場に及ぼす影響は、技術そのものよりも実際の導入ペースと新規雇用を生み出す力に左右されるとの見方が強い。今後は、業種別の採用動向や雇用指標が、AIが緩やかな構造調整を促すのか、それともより大きな雇用ショックにつながるのかを見極める材料になりそうだ。

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