米国のステーブルコイン市場で、大手発行体への集約が一段と進む可能性が出てきた。GENIUS法で定められた細則確定の節目とされる7月18日以降、準備金規制や月次監査、許認可、AML(マネーロンダリング対策)対応が本格化すれば、発行事業の競争力は規制対応コストをどこまで吸収できるかに大きく左右される見通しだ。
ブロックチェーンメディアのCryptoSlateによると、米GENIUS法は成立から1年以内に細則を確定するよう求めており、7月18日が重要な節目になるとみられている。これ以降、発行体には、準備金の構成や外部監査、償還基準、許認可、取引モニタリングを含む包括的なコンプライアンス体制の整備が求められる。
業界では、今回の制度整備をステーブルコインの制度化に向けたシグナルと受け止める声がある一方、中小の発行体にとっては高い参入障壁になりかねないとの見方も強い。txのマイク・マクラスキーCEOとPlasmaのザヒル・エブティカールCSOはともに、今回の規制を単なる許認可の問題ではなく、継続的なコスト負担の問題と位置付けた。
エブティカール氏は、分別管理された準備金口座、毎月の外部監査、専任のコンプライアンス人材、AMLシステムはいずれも恒常的な費用だと指摘する。流通額が2億ドル(約300億円)でも20億ドル(約3000億円)でも基礎的なコストは大きく変わらず、規模の小さい発行体ほど負担が重くなるという。
実際、市場はすでに少数の大手事業者に集中している。DefiLlamaによれば、ステーブルコイン市場の時価総額は約3115億ドル(約46兆7250億円)。このうちUSDTとUSDCで約80%を占める。内訳はUSDTが1844億ドル(約27兆6600億円)、USDCが733億ドル(約10兆9950億円)だ。
GENIUS法では、ステーブルコインの準備金を、要求払い預金、短期米国債、翌日物レポ、政府系マネー・マーケット・ファンドなどの高流動性資産で保有するよう求めている。加えて、登録会計法人による月次検証を受けること、CEOとCFOが準備金の数値に直接署名することも義務付ける。発行体は銀行秘密法上の金融機関として扱われ、顧客確認や制裁対象者のスクリーニング、取引モニタリングも義務になる。
収益構造にも影響は及ぶ。GENIUS法は、トークンを保有しているだけの利用者に対し、利息や収益を支払うことを禁じている。このため、発行体の収益性は準備金の運用益と流通ネットワークの確保に左右される可能性が高い。
CryptoSlateは、コスト構造の違いを具体例で示している。3カ月物米国債利回りが3.74%の場合、流通額が2億ドル(約300億円)のステーブルコインでは、準備金運用による年間収益は約750万ドル(約11億2500万円)となる。一方、監査、法務、許認可、AMLシステムに年間1500万ドル(約22億5000万円)かかるとすれば、採算確保は難しい。これに対し、規模が100億ドル(約1兆5000億円)の発行体では、同じ費用は約3億7400万ドル(約561億円)の準備金収益に対して4%程度にとどまる。
100億ドル(約1兆5000億円)未満の発行体には、州の規制枠組みを活用する余地も残されている。ただし、その州規制が連邦基準と実質的に同等だと認証される必要がある。エブティカール氏は、この仕組みは一見すると小規模発行体の保護策に見えるものの、実際には成長の上限として機能しかねないとみる。発行額が100億ドルを超えると、360日以内に連邦監督下へ移行しなければならないためだ。
一方で、機関投資家の参入を後押しするとの見方もある。マクラスキー氏は、機関投資家が待っていたのは技術的なブレークスルーではなく、内部審査を通過できる強固なコンプライアンス体制だと説明する。銀行発行のステーブルコインや、CircleのUSDCのように規制基準を満たす資産は、企業の財務部門や機関投資家にとって利用しやすい商品になり得るという。
流通ネットワークを巡る競争も激しくなりそうだ。Visa、Mastercard、Coinbaseなど140社超が参加するOpenUSD陣営は、準備金の運用益を参加企業と分配する仕組みを進めている。大規模なネットワークを持つ事業者ほど規制対応コストを吸収しやすく、流通面で優位に立つ可能性が高い。
2028年7月18日以降は、認可を受けた発行体、または要件を満たす海外発行体が発行する決済用ステーブルコインでなければ、米国の利用者に広く提供することが難しくなる見通しだ。この場合、規制対象外のトークンは取引所へのアクセスや流動性を失う可能性がある。
GENIUS法は、ステーブルコインの安全性と制度上の信頼性を高める一方で、発行事業そのものを大規模資本とコンプライアンス基盤を必要とする産業へ変えつつある。市場では7月18日が、ステーブルコインの合法性だけでなく、どの発行体がこのコスト構造に耐えられるかを分ける出発点になると受け止められている。