SK TelecomはKAISTと共同で、AI映像合成技術「InsertAnywhere」を開発した。撮影後の映像に製品やロゴ、小道具、キャラクターなどを自然に挿入でき、反射や影、遮蔽まで再現する。従来は数日から数週間を要していた合成作業を最短数時間に短縮し、工程の90%超を自動化したという。
同技術は、映像制作の現場で手間のかかるポストプロダクション作業の効率化を狙うものだ。追加撮影や煩雑な手作業を極力減らし、AIが映像内の空間構造や動きを解析して、あたかも最初から存在していたかのように対象物をなじませる。
ナ・テヨンSK Telecomエンタープライズソリューション開発チーム長はDigitalTodayの取材に対し、「従来にもAIで広告画像を自動合成する技術はあったが、実際には裏側で人手作業が多く残っていた」と説明。「InsertAnywhereは、結果をすぐに確認できる点が大きく異なる」と語った。
◆映像の流れを解析し、自然に合成
InsertAnywhereは、撮影時に入れられなかった製品や小道具、キャラクター、ブランドロゴなどを既存映像に自然に挿入する技術だ。利用者が挿入位置を指定すると、AIがその内容を映像全体に反映する。
単に色味を調整して映像上に貼り付ける方式ではない。映像内の3次元空間構造に時間軸を加えた「4Dシーン理解技術」を用い、カメラや物体の動き、周辺光、反射、影を同時に解析する。異なる環境で作成した画像と映像を、1つのシーンとして違和感なく統合できる点が特徴だ。
例えば、撮影済みの映像に自動車画像を挿入した場合でも、ガラスや車体表面には周囲の光や空間に応じた反射表現を適用できる。ファッション分野では、モデルの試着動画で衣装だけを差し替え、別の商品を着用しているように見せることも可能だ。モデルの動きやカメラワークに合わせて、差し替えた衣装が自然になじむという。
広告で使う製品画像や企業ロゴは、鮮明に見せる必要がある一方で、目立ちすぎるとコンテンツへの没入感を損なう恐れもある。このためSK Telecomは、広告主が求める露出度と制作者が求める自然さのバランスを取れるよう、合成の強さや色味などを調整できる機能も用意した。
◆数週間かかる作業を最短数時間に
InsertAnywhereは、SK Telecomのバーチャル間接広告(VPPL)ソリューション「AdFlux」の中核技術として開発された。2025年からチュ・ジェゴルKAIST教授の研究チームと共同研究を進めており、関連論文は9月にスウェーデン・マルメで開かれるコンピュータビジョン分野の学会「ECCV 2026」に採択された。関連技術の特許出願も完了したとしている。
InsertAnywhereを適用したAdFluxは、「最後まで行く 独り負担ツアー」「私たち、今会おう」「大爆笑―呼べばいつでもコール」などの番組に導入された。
ロゴや看板など比較的難度の低い合成であれば、数時間で処理できるという。製品が他の物体と複雑に重なったり、長時間登場したりするシーンはより時間を要するが、それでも従来の手作業中心の方式に比べて制作期間を大幅に短縮できるとしている。
ナ・テヨンSK Telecomエンタープライズソリューション開発チーム長は「過去にはAI合成を任せたものの、半月たっても結果が出なかったという話も聞いた」とした上で、「InsertAnywhereなら、簡単な作業は1〜2時間で結果を確認できる。数週間かかっていた作業も、長くても2日程度まで縮められる」と述べた。
さらに、「現在は合成工程の90%以上を自動化できているとみている」と説明。「残る部分は、AIの結果が顧客の好みや要件に合っているかを人が確認し、補正する工程だ」と付け加えた。
◆広告以外にも映画、コマースへ展開
SK TelecomはInsertAnywhereを広告以外の映像制作分野にも広げる計画だ。映画やドラマのポストプロダクションに適用すれば、撮影後に必要な小道具を追加したり、現在は入手しにくい過去の時代の物品を映像内に再現したりできる。時代劇制作で必要な小道具をすべて制作・購入する負担を減らし、インディーズ映画や中小制作会社でもコストを抑えながら完成度を高められるという。
ナ・テヨンSK Telecomエンタープライズソリューション開発チーム長は「映像や映画の制作は今も人が一つ一つ処理しなければならない作業の比率が高く、中小制作会社にとって大きな負担になっている」と指摘し、「インディーズ映画や中小の映像制作会社にも技術を提供し、誰もがより容易にコンテンツを制作できるようにしたい」と語った。
コマース分野も有望市場とみている。モデルが1回撮影した映像に対し、販売者が保有する複数の衣料画像を順次適用すれば、商品ごとにモデルを手配して撮影し直すコストを抑えられるためだ。
SK Telecomは、オンラインショッピングモールのアドレスを入力するとAIが商品画像を取得し、映像内の人物の衣装を差し替える方式も試験している。機能の高度化を進めた上で、コマース事業者への提供を検討している。
海外からの関心も出ている。ナ・テヨンSK Telecomエンタープライズソリューション開発チーム長は「論文と技術が知られた後、トルコで現地の放送局やインフルエンサー向けに事業を試したいという提案があった」と明かし、「複数の協業の可能性を協議している」と述べた。
◆APIやSaaSでの提供も視野
現時点ではAdFluxの中でInsertAnywhereを提供しているが、市場需要が確認できれば、中核機能だけをAPIとして切り出して提供することも可能だという。画像と映像をアップロードし、挿入位置を指定するだけで結果を受け取れるSaaSや、映像制作者向け編集ツールへの展開も視野に入れている。
ナ・テヨンSK Telecomエンタープライズソリューション開発チーム長は「技術的にはInsertAnywhereの中核機能をAPIで提供する準備はできている」とし、「需要があれば、SKグループのオープンAPIプラットフォームなどを通じて別サービスとして提供する上で、大きな技術的障壁はない」と説明した。
一方で、一般利用者に広く開放する場合は、ディープフェイクや無断合成といった悪用リスクへの対策が必要になる。SK Telecomは将来のオープン型サービスに向け、ログインと利用者確認、ウォーターマーク、利用条件の告知などを通じて副作用を防ぐ方針だ。
SK Telecomがこうした映像合成技術を開発する背景には、AI技術力に加え、メディア事業の基盤がある。SK Broadbandを通じてIPTVと放送事業を手がけており、広告、コマース、映像サービスなど、技術を適用できる事業領域をすでに持つ。
ナ・テヨンSK Telecomエンタープライズソリューション開発チーム長は「SK Telecomは通信会社だが、メディアも主要事業の1つだ」とした上で、「SK Broadbandや広告、コマースなど、社内事業にAI映像技術を適用できる領域は非常に多い」と語った。
その上で、「当初はバーチャル広告という特定市場向けの技術として開発したが、映像制作や映画、コマースなど活用先は無限にある」と述べ、「多くの人が実際に使い、コンテンツ制作の負担を減らせる技術へと広げていくのが目標だ」と強調した。