Moody'sは、ビットコインを含む暗号資産業界に対し、量子コンピューターへの対応はもはや長期的な課題ではないと警鐘を鳴らした。2030~2031年を視野に、暗号技術の移行計画を具体化する必要があるとしている。
Bitcoin Magazineが1日付で報じたところによると、Moody'sは、ドナルド・トランプ米大統領が6月22日に署名した2件の大統領令を受け、暗号資産業界が基盤となる暗号技術の耐性を示す必要に迫られていると分析した。
焦点となるのは準備のタイミングだ。大統領令の1つは、量子分野のブレークスルーをもたらし得る高性能な量子コンピューターの開発を指示し、90日以内にシステム仕様をまとめるよう求めた。もう1つは、連邦機関のポスト量子暗号(PQC)への移行日程を前倒しする内容で、従来2035年としていた期限は2030~2031年へと早まった。
Moody'sは、この日程変更が暗号資産業界にも直接影響するとみる。ビットコインは、所有権の保護や取引の承認、基盤インフラの運用全般で公開鍵暗号に依存しており、十分な性能を持つ量子コンピューターが実用化されれば、秘密鍵を守る楕円曲線署名が破られる可能性があるためだ。
さらに、ブロックチェーンの取引構造上、被害が生じた際の復旧が難しい点もリスクを大きくしている。Moody'sは「鍵が損なわれれば、取り返しのつかない結果につながりかねない」と指摘した。銀行送金と異なり、オンチェーン取引では、盗難後に取引を取り消したり資金を回収したりできる余地が限られる。
市場参加者が足元で警戒すべきなのは、量子コンピューターの完成時期そのものより、「いま収集し、後で解読する」型の攻撃だ。攻撃者が現在の暗号化データを取得して保管し、いわゆる「Qデイ」に一斉に解読するシナリオである。ビットコインネットワークでは、長期間動きのないウォレットや、公開鍵が露出した再利用アドレスが継続的な標的になり得る。初期のPay-to-Public-Key(P2PK)形式のアウトプットに保管された、サトシ時代のコインも露出度の高い資産として挙げた。
こうした状況を受け、取引所やカストディ事業者、トークン化プラットフォームの負担も増す見通しだ。Moody'sは、市場参加者に求められる能力として「暗号アジリティ」を挙げた。脆弱なアルゴリズムを大きな混乱なく特定し、更新し、置き換えられる能力を指す。あわせて、ウォレットやカストディの仕組み、スマートコントラクトに残る露出リスクを正確に把握する作業も必要になるとした。
Moody'sは、この問題を単なる技術課題にはとどまらないとみている。信頼できる量子移行計画を示せる組織は、規制業種の金融機関に採用されやすくなり、強化が進むサイバーレジリエンス監督にも対応しやすくなると判断した。ウォール街や年金基金の資金を呼び込みたい業界にとって、量子対応は遠い将来の研究テーマではなく、市場参入の前提条件に近づきつつあるという。
ビットコイン陣営では、量子耐性を持つ署名方式という技術的な代替案はすでに提案されている。ただ、実装は別の問題だ。Moody'sは、分散型ネットワークでは合意形成に加え、ソフトフォークやウォレット移行を並行して進める必要がある点を、より難しい課題として挙げた。中央の統制主体を持たないビットコインの性質上、技術的な解決策があっても移行速度を高めにくいとしている。
結局のところ、業界の焦点は2030年前後までに移行経路をどこまで具体化できるかにある。Moody'sは、分散型ネットワークにとっても事実上の「2030年期限」が示されたとの見方を示した。取引所やカストディ事業者、ステーブルコイン発行体が量子対応計画をどれだけ早く整備できるかが、今後の信頼性や資金流入の条件を左右する可能性がある。