Appleは、ビットコインウォレット「Sparrow Wallet」の開発者クレイグ・ロ氏に対する開発者アカウント停止方針を撤回した。ただ、App Storeに掲載されている偽のSparrow Walletアプリは依然として残っており、問題の根本的な解決には至っていない。
Bitcoin Magazineによると、ロ氏は23日(現地時間)、異議申し立てが認められ、Appleがアカウント停止の判断を取り下げたと明らかにした。
発端は、Appleがロ氏に対し、月末までに開発者アカウントを停止すると通知したことだった。理由として示されたのは「不誠実な行為」だったが、ロ氏はこれを誤りだと主張していた。
ロ氏は南アフリカ出身で、2020年にオープンソースのビットコイン向けデスクトップウォレット「Sparrow Wallet」を開発した。対応OSはmacOS、Windows、Linuxで、モバイルアプリは提供していない。
問題となったのは、App Storeに出回った偽のSparrow Walletアプリだ。ロ氏によると、2023年以降、Sparrowの名称とロゴを無断で使用した詐欺アプリが10件以上登録された。これらのアプリは利用者にシードフレーズの入力を促し、窃取した情報を使って暗号資産を盗み取っていたという。シードフレーズはウォレットの復旧や資産へのアクセスに必要な重要情報で、漏えいすれば保有資産を失うおそれがある。
ロ氏は昨年からAppleにこうしたアプリを通報し、利用者にも継続的に注意を呼びかけてきた。一部は削除されたものの、類似のなりすましアプリが繰り返し現れたとしている。
実際の被害も出ている。ロ氏は、貯蓄や長期保有分の資産をすべて失ったとの報告を利用者から複数回受けたと述べた。Sparrow Walletの名称とロゴに関する米国の商標権はロ氏が保有している。
事態が深刻化するなか、ロ氏はApp Storeに注意喚起用のアプリを申請した。実際のウォレット機能は持たせず、「Sparrowはデスクトップ専用で、公式のモバイルアプリは存在しない」と警告する内容だった。
しかしAppleは、これを「プレースホルダーコンテンツ」に当たるとして掲載を認めず、その後は開発者アカウント自体を停止対象とした。アカウント停止が実行されれば、Sparrow Walletの利用者にも大きな影響が及ぶ可能性があった。
Sparrow WalletはApp Storeでは配布されていないが、macOS向けソフトを配布するには有効なAppleの開発者証明書が必要となる。このため、アカウントが停止されれば証明書も無効となり、新規インストールが難しくなるほか、アップデート提供が止まる可能性もあった。ロ氏は期限を前に、Xで「Appleが人の手で精査すれば判断は覆ると信じている」と投稿していた。
異議申し立てが認められ、アカウントは維持されたものの、根本的な問題は残ったままだ。ロ氏は、アカウント問題の解消後もApp Store上に偽のSparrow Walletアプリが残っており、利用者の資金が引き続き危険にさらされていると指摘した。
ロ氏は、Sparrow Walletはモバイル版を提供していないと改めて強調し、App Storeで同名アプリを見つけても公式サービスと誤認しないよう呼びかけた。
今回の件は、自己保管型の暗号資産ウォレットがプラットフォームの運用方針に大きく左右されうる実態を示した事例といえる。利用者が秘密鍵を直接管理する仕組みでは、なりすましアプリが1本紛れ込むだけでも資産全体を失いかねず、プラットフォーム側の対応の重要性が改めて浮き彫りになった。