オランダの半導体製造装置大手ASMLが、次世代「ハイNA(High Numerical Aperture)」EUV露光装置の出荷を開始した。1台当たりの価格は4億ドルに達する。先端半導体の微細化を支える切り札として期待される一方、導入コストの大きさや対中輸出規制が普及の制約要因となりそうだ。
MIT Technology Reviewが23日(現地時間)に報じた。新装置の解像度は8ナノメートル(nm)で、従来のEUV露光装置よりも微細な回路形成が可能になる。
露光工程は、シリコンウエハー上にトランジスタや配線構造を描き込む半導体製造の中核工程だ。ASMLは、スマートフォン向けチップからAI向け半導体まで、先端ロジックの量産に欠かせない露光装置市場で約90%のシェアを握る。
ハイNA EUVは、従来EUVで可能だった13nmよりも細かいパターン形成に対応する。半導体メーカーにとっては、チップの集積度を高める有力な手段となる。
需要拡大の背景には、AIインフラ投資の加速がある。OpenAI、Google、Meta、Anthropicなどが大規模なデータセンター投資を進める中、高性能で電力効率に優れた半導体への需要が急増している。
ASMLの最高技術責任者(CTO)、マルコ・ピーテルス氏は、顧客がより微細なプロセスへ移行するほど、AI分野で進む急速な拡大を支えやすくなると説明した。その上で、現在の需要拡大はまだ「氷山の一角」にすぎないとの見方を示した。
ハイNA EUVは新たな光源を採用した装置ではない。既存のEUV光源を使いながら、数値開口数(NA)を0.33から0.55へ引き上げ、描画精度を高める仕組みだ。
ASMLによると、これによりトランジスタ寸法をほぼ半分に抑え、チップ内の集積密度を約3倍に高められる。ただ、その実現には大型ミラーや高出力レーザー、高速駆動系など新たな技術対応が必要になる。
例えば、新しいレチクルは最大22gの加速度で動作する。ドイツのCarl Zeissは、大型化した反射鏡と12トン級の投影システムを新たに設計した。
初期ユーザーとして最も先行しているのはIntelだ。Intelは2024年春、オレゴン工場に初のハイNA EUV装置を搬入し、組み立てと試験を進めてきた。
Intelフェローのマーク・フィリップス氏は、装置が想定より早く安定したとして評価した。Intelはまず一部の高精度工程に投入し、その後、適用範囲を段階的に広げる方針だ。
一方、TSMCは、顧客に最大の効果をもたらせる段階まで技術が成熟してからハイNA EUVを導入する考えを示している。業界では、TSMCが既存EUVとマルチパターニングをできる限り活用した上で、2030年代に本格導入へ踏み切るとの見方が出ている。
普及ペースを左右する最大の要因の一つがコストだ。従来のEUV装置も1億ドルを大きく上回る高額設備だったが、ハイNA EUVはその4倍の4億ドル規模に膨らむ。
半導体メーカーにとっては、工程簡素化や性能向上の効果が見込めても、大規模量産ラインに直ちに全面展開するには負担が重い。SemiAnalysisのジェフ・コック氏は、性能は30〜50%改善した一方、ASMLの装置としては初めて採算性がすぐには見えにくい製品になり得ると指摘した。
規制環境も市場を分断している。米国は2019年、オランダ政府に働きかけ、ASMLの先端装置を中国企業へ販売できないようにした。
この結果、中国はハイNA EUVだけでなく、従来型のEUVも調達できない状況にある。代替策として、深紫外(DUV)露光とマルチパターニングを極限まで活用する戦略を取っている。Special Competitive Studies Projectの上級顧問、デービッド・リン氏は、中国はDUV技術を限界まで押し上げるだろうと述べた。
同時に中国では、DeepSeekのような軽量大規模言語モデルの開発も進む。高性能AIチップの不足をソフトウェア面で補う狙いがある。
ASMLの独走に対抗する動きもある。米スタートアップのSubstrateは、粒子加速器で生成したX線を使う露光装置を開発中で、2030年までの量産を目標に掲げた。
ノルウェーのRaze Lithographyは、光ではなく高エネルギーのヘリウム原子ビームを使う方式の実用化を目指す。ただ、いずれの企業も実験室レベルの技術を量産へつなげるまでには大きな壁があるとみられている。
ASMLはハイNA EUVの次も見据える。数値開口数を0.75まで高めた「ハイパーNA」を検討しており、解像度を6nm水準まで引き下げる方向で研究を進めている。
ASMLで技術部門を担当するヨス・ベンスホップ副社長は、現時点で実質的な代替技術は見当たらず、最先端半導体の量産分野で有力な競合はいないとの認識を示した。次の焦点は、この装置をどの企業が安定的な量産へ結び付けられるかに移りつつある。