生成AIの普及を受け、米国では中高年のホワイトカラーが、AIを学んで働き続けるか、早期退職に踏み切るかという選択を迫られている。長年の実務経験が改めて評価される一方、AI導入の流れに乗り遅れれば、再就職や雇用維持で不利になりかねないためだ。
米Business Insiderは23日(現地時間)、こうした動きを報じた。記事によると、数十年にわたってキャリアを積んできたベビーブーム世代の会社員は、経験を武器にできる半面、職場のAI活用が急速に進む中で新たな圧力にも直面しているという。
その変化は、すでに採用の現場に表れている。53歳のソフトウェアエンジニア、キース・ヘイデン氏は、昨年秋に転職活動を進める中で、面接官からAIスキルを重点的に問われる場面が増えたと感じた。その後、AnthropicのClaudeを契約し、学習を始めた。
ヘイデン氏は、AIのコーディング能力について「楽観的である一方、懐疑的でもある」と語る。新たな職場でも、自らコードを書く役割が残ることを望んでいるという。
世代間の差はデータにも表れている。Pew Research Centerの調査では、2025年初めの時点で、30歳未満の成人の58%がChatGPTを使ったことがあると答えたのに対し、50〜64歳では約4分の1にとどまった。
一方、米国国勢調査局の資料によると、55歳以上の労働者が全体に占める割合は、1994年の10%から2022年には25%へ上昇した。労働市場にとどまる高年齢層が増えるほど、AIシフトの影響を受ける人も広がることを示している。
もっとも、AIがベテラン層の雇用安定に追い風となる可能性を指摘する声もある。米国退職者協会(AARP)のシニアアドバイザー、ヘザー・ティンズリー=フィックス氏は、AIは若年層よりも高齢の労働者に有利に働く可能性がある初めての技術革新かもしれないと述べた。
特定業務で培った深い知見に加え、批判的思考やシステム全体を俯瞰する理解力は、中高年人材の強みだという。
ただ、そうした強みだけで乗り切れるわけではない。企業がホワイトカラー業務の自動化を急ぐ中、ベテラン層にも新たなAIツールの習得が求められている。
57歳のステイシー・ギルクリスト氏は、解雇後2年間にわたって仕事を探している。ヘルステック分野のAI企業で、看護師のような応答をするAIエージェントを訓練する契約業務を担ったが、採用の過程ではAIが新たな障壁になる場面もあったと話した。
現在の職場にとどまる中高年層も、同様のプレッシャーを感じている。法務関連の営業分野で働く47歳の会社員は、勤務先がAI活用を前提に、より多くの成果を求めるようになり、働き方が変わったと語った。
一方、顧客サービス分野で働く54歳のジェームズ・セーガー氏は、今後5年以内の退職を検討している。AIが人員削減につながる可能性はあるとみる一方、自ら新たに学ぶつもりはないという。
AIへの向き合い方は世代によって分かれる。最近の卒業生や若い求職者は、AIの影響による初級職の減少をより直接的に受けている。
これに対し、中高年人材はこれまでに景気後退や技術転換を何度も経験してきたため、相対的に悲観は小さいとの見方もある。
最終的な争点は、AIそのものよりも、残された職業人生をどう組み立てるかにある。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの行動科学者、ダニエル・ゾルス氏は、新型コロナウイルス禍のような大きな変化は、仕事の意味や将来設計を見直す契機になり、AIも同じ問いを突きつけていると述べた。
望まない形で職場を離れることが最悪のシナリオになり得る中、中高年のホワイトカラーにとってAIは、生産性を高めるツールであると同時に、キャリア終盤の到来を早めかねない変数として浮上している。