米政府はこのほど、Anthropicの最新AIモデル「Mythos」「Fable」について、外国人による利用を禁止した。AIの危険性や安全対策の必要性を繰り返し訴えてきた同社の発信が、結果として規制判断を補強する材料になったのではないかとの見方が広がっている。
Ars Technicaが22日付(米国時間)で報じたところによると、Financial TimesはAnthropicと競合するOpenAIの今年の発信内容を分析し、Anthropicの方がAIの危険性や規制の必要性をより前面に押し出してきたと伝えた。
分析対象となったのは、Anthropicおよびダリオ・アモデイCEOによる公式声明、ソーシャルメディアへの投稿、寄稿文など。FTによれば、Anthropicは危険性、規制、安全性に関する表現を1000語当たり平均5回使用していた。
これに対し、OpenAIとサム・アルトマンCEOの関連表現の出現頻度は0.6回にとどまった。
個別の語句でも差は大きい。Anthropicは今年、「risk」に336回、「safeguard」に121回、「vulnerability」に128回言及したのに対し、OpenAIはそれぞれ30回、33回、10回だった。
こうしたメッセージ戦略が、米政府の規制判断と連動したとの見方も政界や業界で出ている。米政府は先週、Anthropicの「Mythos」「Fable」について外国人による利用禁止に踏み切った。
措置の理由としては、国家安全保障とサイバーセキュリティ上のリスクが挙げられている。
中でも論争の中心となったMythosは、主要なサイバーセキュリティ脆弱性を検知できる高性能モデルとして紹介されてきた。Anthropicは安全上の懸念を理由に、当初は一部の米国機関に限定してアクセスを認めていたという。
また、正式公開前まで政府関係者と公開方針を協議してきたとも報じられている。
ただ、この過程を巡っては「危険性を過度に強調した結果、結果的に規制を後押しする材料を自ら示した」との批判もある。Metaの前チーフAIサイエンティスト、ヤン・ルカン氏はソーシャルメディアで、アモデイ氏のAIリスク論を「根拠の乏しい恐怖の扇動」と批判し、「結局は自業自得だ」と主張した。
アルトマン氏も4月のポッドキャストでMythosに言及し、「われわれが爆弾を作り、いまそれをあなたの頭上に落とそうとしている、と語るのはかなり異例のマーケティング戦略だ」と皮肉った。
Anthropicはこれまで、AI業界における代表的な「安全重視」派とみなされてきた。アモデイ氏は輸出禁止の直前に公表した長文ブログで、規制当局の対応はあまりに遅いとした上で、AIが金融システムや重要インフラ、国家安全保障に現実的なリスクをもたらし得ると警告していた。
一方で、こうした警告が政府規制を正当化する論理として使われたとの指摘も出ている。米政府のAI政策を担ったデービッド・サックス前AI担当は、「信頼できるパートナーが安全装置を回避する手法を示したにもかかわらず、Anthropicはそのリスクを過小評価した」と主張した。
その上で政府は、最終的に禁止措置を取らざるを得なかったと述べた。
今回の措置は、米政府とAnthropicの対立が深まる中で打ち出された。両者は、AI技術の国家安全保障分野での活用や監視技術への適用を巡って公然と対立してきたとされる。
米国防総省は2月、Anthropicを国家安全保障上のサプライチェーンリスク企業に指定した。現在、両者はこの指定の適法性を巡って法的紛争を続けている。
業界では、今回の措置はAnthropicだけの問題にとどまらず、米政府が今後、先端AIモデルをどの基準で統制していくのかを占う最初の事例になり得るとの見方が出ている。
米国が先端AIチップの輸出拡大を進める一方、最先端AIモデルには強いアクセス制限を課す姿勢を示していることから、政策の整合性を疑問視する声もある。
専門家の間では、今回の措置が今後の米欧間、さらには主要同盟国との間で進むAI技術の統制・規制論議にも影響を与える可能性があるとみられている。