WeakerKoreaのハン・テギョンAI株式市場データベンダー事業部門長は、金融AIの高度化を阻む最大の要因はモデル性能ではなくデータ設計にあるとの認識を示した。現場の専門知識や暗黙知をLLMが扱える形に整理する「金融オントロジー」と、問いに応じて必要なデータを連携させる設計が鍵になるという。
ハン氏はクオンツトレーダー兼開発者として18年目。高麗大学でコンピュータ工学と統計学を学び、KAISTで金融工学の修士課程を修了した。Samsung Asset Management、DoMulMeoRi、MotAIを経て、現在はWeakerKoreaで金融オントロジーに基づくAI株式市場分析サービスの開発を担っている。
同氏によると、生成AIの登場によって金融データ分析の生産性は大きく向上した。これまで手作業で進めていた企業決算発表の分析、ニュースのテーマ抽出、データモデリングなどをAIが担うようになり、業務効率は数十倍に高まったという。
ただ一方で、金融分野ではモデルの高性能化だけでは不十分だと指摘する。ハン氏は「最新データにつながっていない高性能モデルより、性能が多少劣っても最新データと連携したモデルの方が、実務でははるかに有用だ」と説明。「重要なのはAIそのものではなく、AIに何を与えるかを設計することだ」と述べた。
LLMを使った金融分析についても、検索中心の仕組みだけでは限界があるとみる。例えば「自己資本利益率(ROE)が最も高い韓国株」を尋ねた場合、一般的なLLMは「ROEが高いことで知られる韓国株」を挙げるにとどまりがちだ。
これに対し、LLMに適切な金融データエンジンを接続すれば、実際のデータに基づいて「ROEが高い韓国株」を提示できるという。ハン氏は「金融AIでは、ウェブ上で公開されていないデータや専門的な分析ツールが中核になる」としたうえで、「どの問いにどのデータをひも付けるかは、結局のところ実務を知る専門家が設計すべき領域だ」と話した。
また、企業業績と株価、マクロ経済指標、統計モデルといった金融データの関係性や文脈を定義し、AIが利用できるようにするプロセスこそが、金融オントロジーの中核だと説明した。ただ、関連する知見の多くは暗黙知に属しており、業界内でもオントロジー構築の必要性に対する認識はまだ高くないという。
ハン氏は「クオンツや投資の専門家はすでに高い市場価値を持っており、自らのノウハウをAI学習データとして体系化する誘因が大きくない」と指摘する。その結果、金融AIは現場の暗黙知を十分に反映できていないという見方だ。
例として、負債比率の解釈を挙げた。教科書的には高い負債比率は投資リスクの兆候とされるが、実務の判断は必ずしもそう単純ではない。ハン氏は「Appleの負債比率は500%程度だが、倒産を懸念する人はほとんどいない」とし、「企業のキャッシュフローや資金調達力、産業構造まで含めて見る必要がある」と述べた。
さらに「こうした文脈を形づくるデータの組み合わせ方や定義づけは専門家ごとの領域であり、その多くが個人のノウハウにとどまっている」とも語った。
現場の暗黙知をLLMにつなげられない限り、金融AIの高度化には限界がある――。ハン氏はそう強調し、「LLMが使うツールやデータを呼び出すオーケストレーションは、その業務を理解している人にしかできない」と指摘した。「AIが進化するほど、こうしたノウハウを持つドメイン専門家の役割はむしろ大きくなる」としている。