東南アジアで海底送電ケーブルを活用した域内電力連系の拡大が進むなか、事業の成否を左右するのは技術ではなく制度設計だとする分析が示された。国家間の電力取引を広げるには、ケーブル敷設そのものよりも、共同計画の枠組みや費用分担、海洋ガバナンスの整備が優先課題になるという。
CleanTechnicaが22日(現地時間)に伝えたところによると、エネルギーシンクタンクのEmberは報告書で、ASEAN各国を結ぶ海底送電事業について、技術的な障害より制度面の課題の方が大きいと指摘した。
分析は「ASEAN相互接続マスタープラン研究III」に基づく。同計画では、2040年までに域内の電力連系容量を現在の7.7GWから2倍超に拡大するには、新設・既設を含め18本の連系線が必要になるとしている。このうち5件は海底送電ケーブル計画に当たる。
Emberは、海底送電ケーブル事業の鍵はケーブル技術そのものではなく、国家間の協力体制をどう構築するかにあると強調した。
エネルギー分析家のアルニ・デモラルは、国家間の海底電力網プロジェクトでは、技術以上に制度面の調整の比重が大きいと説明した。送電網の連系が進めば、エネルギー安全保障の強化に加え、低コスト電源の活用や国家間の電力取引拡大、脱炭素化の後押しにつながると評価した。
その背景には、東南アジアにおける再生可能エネルギー資源の偏在がある。メコン地域は豊富な水力資源を抱えるほか、太陽光発電や洋上風力の開発も急速に進んでいる。
海底送電ケーブルは、こうした電力を発電地から需要地へ送る中核インフラとして注目を集めている。
特にインドネシアやフィリピンなどの島しょ国では、国内送電網の接続でも海底ケーブルへの依存度が高い。フィリピンではすでに主要島しょ間の送電網接続に高電圧直流送電(HVDC)技術が使われている。
Emberは、ASEANが解決すべき主要課題として、共同計画の枠組み、費用分担のルール、海洋ガバナンスの3点を挙げた。
まず必要なのは、地域レベルでの計画機能の強化だという。どの事業を優先するのか、投資の順序をどう定めるのかについて、共通の意思決定プロセスを整備することで、域内全体の便益を最大化できるとしている。
費用分担も重要な論点だ。国家間送電網の便益は複数の国にまたがって生じるため、投資コストも共通ルールに基づいて配分すべきだとした。こうした基準がなければ、案件ごとに個別交渉を繰り返すことになり、事業期間の長期化やコスト増につながるおそれがあるという。
海洋ガバナンス面でも課題は多い。海底ケーブルは、領海や排他的経済水域(EEZ)、船舶の航路、漁業水域、通信ケーブルなどが重なる海域を通過する。このため、エネルギー当局だけでなく、海洋・環境当局も含む横断的な調整体制が必要になると分析した。
短期的な対応策としてEmberは、ASEAN電力網の共同計画機能を実効的に稼働させるとともに、構造化された費用便益分析の枠組みと、海底ケーブルを専門に扱うワーキンググループの設置を提案した。
フィリピンの国営エネルギー企業のフィリックス・ウィリアム・プエンテベラ議長は、「欧州の経験は、海底送電ケーブル事業の成功が技術的な実現可能性だけでなく、計画、規制、資金調達、海洋ガバナンスを調整する能力に左右されることを示している」と述べた。
ASEANは2025年、強化版のASEAN電力網に関する了解覚書を締結し、域内エネルギー統合に向けた意思を改めて確認した。今後の海底送電ケーブル事業は、技術力そのものよりも、国家間の協力体制をどこまで実効的に築けるかが問われることになりそうだ。