米国政府が、オランダの半導体製造装置大手ASMLの極端紫外線(EUV)露光装置が中国に渡った可能性があるとの懸念を示している。これに対しASMLは、中国国内にEUV装置は存在しないと真っ向から否定した。
TechCrunchが19日(現地時間)に報じたところによると、ASMLは声明で「EUV装置が中国に存在したことは一度もない」と表明し、米国側の見方に反論した。
発端となったのは、ハワード・ラトニック米国商務長官がASML経営陣との会談で懸念を伝えたとの報道だ。米国政府は、EUV関連部品や輸送機器が中国に持ち込まれたことをうかがわせる状況証拠があると主張する一方、中国にEUV完成装置があることを示す証拠は公表していない。米国商務省も、中国国内にEUV装置があるかどうかについて明確な説明はしていない。
今回の論点の背景には、EUV装置の戦略的重要性がある。EUVは3ナノメートル(nm)以下の先端半導体の製造に不可欠とされ、EUV露光装置を製造できるのは世界でASMLのみだ。TSMCの先端プロセスに加え、NvidiaやAppleの最新AI・モバイル向けチップの生産も、ASMLのEUV技術に支えられている。
仮にEUV装置が実際に中国へ渡っていた場合、米国が数年かけて構築してきた対中半導体輸出規制の実効性を揺るがしかねない。米国はトランプ第1次政権期以降、オランダ政府と連携し、ASML製EUV装置の対中輸出を事実上封じてきた。
ASMLのクリストフ・フーケ最高経営責任者(CEO)は、こうした見方を強く否定している。同氏は、これまで出荷したすべてのEUV装置を追跡しており、現在は顧客施設で稼働しているか、回収済みで同社に戻っていると説明した。あわせて、EUVの中核技術や関連文書、教育資料へのアクセス権限も厳格に管理しており、中国拠点の従業員が当該情報に接触できないよう分離運用していると明らかにした。
技術面でも、中国が短期間でEUVを確保したり複製したりするのは難しいとの認識を示した。フーケCEOは「ASMLのEUV技術は数十年にわたる蓄積の上に成り立っている」とした上で、「中核技術であるEUV光源の開発だけでも20年を要した」と説明した。実機を入手していない以上、リバースエンジニアリングも容易ではないとの見方だ。
事業面からも、ASMLがEUVの不正搬入に関与する合理性は乏しいとの指摘がある。ASMLは現在、中国に旧世代の深紫外線(DUV)露光装置を販売しており、同社はこれを、技術格差を維持する範囲で認められた事業だと位置付けている。
ASMLは、2026年売上高の約20%を中国向け販売が占めると見込む。EUV輸出規制に違反すれば、中国事業だけでなく世界市場での地位も損ないかねず、不法搬入に踏み切る可能性は低いというのが同社側の説明だ。
もっとも、疑念が完全に払拭されたわけではない。米国政府が関連証拠を開示していない現段階では、米国側の主張とASML側の説明が食い違ったままとなっている。
一方で米国は、次世代露光技術の確保にも動きを強めている。米国商務省は昨年末、次世代光源技術を手がけるスタートアップxLightに対し、最大1億5000万ドル(約225億円)を支援する計画を発表した。業界では、この技術が長期的にASMLのEUV技術に挑む可能性があるとみられている。
米議会では、EUVに加えてDUV装置の中国向け輸出も制限する超党派法案の審議が進んでおり、同法案は4月に主要委員会を通過した。市場では今後、米国政府が追加証拠を示すのか、あるいは対中半導体規制をさらに強化するのかに関心が集まっている。