生成AIの業務利用が急速に広がるなか、AIへの依存が専門職の技能や理解力を損なう可能性を示す研究が相次いでいる。医療やソフトウェア開発では、AI支援に慣れた後、AIなしで業務に当たったところ成果が落ちた事例も報告された。
論点は単なる生産性向上ではなく、熟練の維持にある。近年の研究では、生成AIが業務の自動化にとどまらず、人の思考や判断の一部を代替することで、専門性の維持に新たな課題をもたらしていると指摘されている。Natureも、こうしたリスクに警鐘を鳴らしている。
現場でも懸念は強い。オランダのヘルスケア事業者が米国の医療従事者を対象に実施した調査では、看護師の70%、医師の77%が、AIへの過度な依存によって専門技能が低下する可能性があると答えた。
こうした懸念を裏付ける研究結果も出ている。ポーランドの研究チームは、内視鏡検査の経験が2000件を超えるベテラン専門医を対象に調査を実施し、AI支援ツールの利用後に自力での判断力が低下する傾向を確認した。
研究では、大腸内視鏡検査中に前がん病変である腺腫をリアルタイムで検出するAIを一定期間導入した。AIを使わずに検査を行ったところ、医師の病変発見率は導入前の28.4%から22.4%に低下した。研究チームは、AI支援への慣れによって、自ら病変を見つける意識や集中が弱まった可能性があると分析している。
同様の傾向はソフトウェア開発でも確認された。Anthropicはエンジニア52人を対象にコーディング実験を実施し、参加者の半数にのみAIコーディング支援ツールの使用を認めた。あわせて、作業内容に対する理解度も評価した。
その結果、AI使用グループの平均スコアは50%にとどまったのに対し、AIを使わなかったグループは67%だった。とりわけ、コードの不具合の原因分析や構造の説明を問う設問で差が大きかった。研究チームは、AIが成果物の作成を後押しした一方で、コードの動作原理に対する理解や学習は十分に深まらなかったとみている。研究結果は論文公開サイトarXivに掲載された。
専門家は、生成AIが従来の自動化ツールと異なる点はここにあると説明する。反復作業の削減にとどまらず、問題の解釈や判断のプロセスまで一部代替するため、利用者が途中の思考を省略し、結論だけを受け入れやすくなるという。特に医療やソフトウェア開発のように、判断ミスのコストが大きい分野では影響がより深刻になりかねない。
このため研究者は、AI利用そのものを減らすのではなく、使い方を見直すことが重要だと強調する。AIが示した答えをそのまま受け入れるのではなく、結果を検証し、自分で判断するプロセスを維持すべきだという。また、自らがどこまで業務をAIに委ねているかを自覚し、AIの限界や誤りの可能性を継続的に点検する必要があると助言している。
生成AIは生産性を大きく高めるツールとして定着しつつある一方、専門職の技能をどう維持するかという課題も浮上している。AI時代には、ツールを使いこなす力だけでなく、AIがなくても判断できる力が競争力の一部になるとの見方も出ている。