写真=Nexon Korea共同代表のカン・デヒョン氏が「NDC 26」で基調講演した

Nexon Korea共同代表のカン・デヒョン氏は16日、ゲーム知識共有イベント「2026 Nexon Developer Conference(NDC 26)」の基調講演で、AIによって実装のハードルが下がるほど、競争力の重心は技術そのものではなく「文脈」へ移るとの見方を示した。ユーザーとの関係や運営を通じて蓄積した信頼を「文脈資本(Accumulated Intelligence)」と定義し、今後の競争優位を左右する要素になると強調した。

講演テーマは「実装が容易になる時代、私たちは何で競争するのか」。カン氏は、ゲーム市場の供給過剰とAIの普及が同時に進む足元の環境を踏まえ、対応戦略として文脈資本の重要性を訴えた。

カン氏はまず、ゲーム市場の構造変化を具体的な数字で示した。Steamでの新作リリース数は2015年の約2800本から2025年には約2万本へと、10年でおよそ7倍に拡大した。一方で、レビュー数1000件超の作品は608本にとどまり、全体の約3%だった。

供給が急増する半面、ユーザーの時間は既存タイトルに集中しているという。2024年のPC・コンソールゲームのプレー時間の57%は、発売から6年以上が経過した作品に費やされた。Steamの同時接続者数は2026年に入って3回、過去最高を更新し、3月には4200万人を突破。業界推定売上高も過去最高となったが、同時期のゲーム分野への初期投資は直近数年で最低水準まで落ち込んだ。

こうした状況について同氏は、「市場は拡大しているのに、成功への門はむしろ狭くなっている」と指摘。その上で、「AIが加われば実装は私たちだけでなく、誰にとっても容易になる」と述べた。

また、実装の障壁が下がっても競争が緩和されるわけではないと説明した。1865年、英国の経済学者ウィリアム・スタンリー・ジェボンズは、蒸気機関の効率向上によって石炭消費は減ると見込んだが、実際には逆に増加した。効率化によって、それまで導入できなかった産業にも蒸気機関が広がったためだという。

ゲーム業界でも同様の変化が起きてきた。商用エンジンが普及すると、エンジン自体では差別化しにくくなり、競争の軸はアートやコンテンツの完成度へ移った。デジタル流通が一般化すると、「作って売る」こと以上に、「見つけてもらい、選ばれる」ことが重要になった。ブランディングやパーソナライズ、マーケティングが新たな競争領域として浮上したのも、その流れの延長線上にあるとした。

カン氏は「実装が容易になる時代、競争の重心は文脈へ移る」と語った。

同氏が示した文脈は、大きく2つの層から成る。1つは、開発者が特定ジャンルに長年向き合う中で蓄積してきた嗜好や判断の感覚。もう1つは、ユーザー同士の関係性や、コミュニティが共有する記憶、世代を超えて受け継がれる感情だ。

具体例として挙げたのが「MapleStory」の帽子制作だ。汎用AIに「MapleStoryのキャラクター向けの帽子」を作らせても、どこか既視感のある仕上がりになりやすい。一方で、20年にわたり蓄積してきたスタイルガイドやユーザー理解を前提に同じ指示を出せば、「MapleStoryらしい」帽子になるという。

カン氏は「スタイルガイドのようにデータ化できる文脈は、今後ますますAIが扱えるようになる」としつつ、「ユーザーとやり取りする中で生まれた関係や、時間をかけて築かれた信頼は、データだけでは再現できない」と述べた。

こうした要素を同氏は「文脈資本(Accumulated Intelligence)」と呼ぶ。「AIモデルは誰でも使えるが、時間をかけて積み上がった文脈はお金では買えず、時間を通じてしか蓄積できない」と説明した。

さらに、文脈資本は複利のように積み上がってこそ資産になると強調した。前作の経験が次作につながらなければ単利にとどまるが、ゲーム内の経験がゲーム外のコミュニティに広がり、さらにクリエイターのコンテンツと結び付けば、利子が利子を生むような複利効果が生まれるという。

例として、ダンジョンボスの難度調整を挙げた。特定のボス戦で繰り返し敗北するというデータだけを見れば、難度を下げる判断に傾きやすい。だが、攻略法を共有し、クリア動画を誇り合うコミュニティの文脈まで踏まえて見れば、そのボスは単なる障壁ではなく、ゲーム文化の一部になっていることが分かるとした。「難度を下げた瞬間、その文化を自分たちの手で壊してしまう」と語り、データと文脈を結び付けて初めて適切な判断が可能になると述べた。

「Roblox」が20年を経て、1日当たり1億3000万人超が接続する世界最大級のゲームへ成長したのも、グラフィックスではなく、文脈が複利的に積み上がった結果だと説明した。Nexonの事例としては、ライブゲームを通じて5年を共に過ごしたカップルから結婚の知らせが招待状とともに届いたエピソードや、2009年に「MapleStory」で起きた偶発的な出来事「カニングシティ大惨事」が15年以上たった今も文化として語り継がれている点を挙げた。

文脈資本は大手スタジオだけのものではないとも指摘した。複利で差がつくのは元手の大きさではなく利率、言い換えれば積み上げ方だという。「小さなチームほど意思決定が速く、ユーザーとの距離も近い。今日得た学びを明日のゲームに、より速く再投資できる」と語った。

その一方で、Nexonが持つ20年分の文脈も、積み上げを止めた瞬間に価値が薄れていく資産だとした。「どれほど大きな元手があっても、単利でしか増やせなければ現状維持にすぎない」と述べた。

講演の最後にカン氏は、AIを2つに分けて整理した。1つは、コードを書き、画像を生成するArtificial Intelligence。強力な武器ではあるが、誰もが同じように使えるため、それだけでは差がつきにくい。もう1つは、ユーザーと過ごした時間、運営を通じて蓄積した判断、コミュニティと築いた文化が複利でつながるAccumulated Intelligenceだ。

同氏は「1つ目のAIは、誰もが持てる武器だ。だが2つ目のAIは、文脈の価値を見抜いた者のものだ」と述べ、「実装が容易になる時代に備えるには、1つ目のAIを誰より使いこなし、その上に2つ目のAIを誰より厚く積み上げることが重要だ」と締めくくった。

キーワード

#Nexon #NDC 26 #AI #文脈資本 #Accumulated Intelligence #Steam #ゲーム #コミュニティ
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.