【チョ・ソンヒョン・Databricks Korea 技術総括】韓国ではAI導入が急速に進んでおり、企業の関心も単なるチャットボット導入から、業務や産業特性に応じて複数のモデルやAIエージェントをどう組み合わせて使うかへと移っている。実運用を見据えたAI活用では、モデルの多様化に加え、評価体制とガバナンスの整備が重要になっている。
科学技術情報通信部によると、韓国のAI技術導入率はOECD加盟国で28%と首位だった。ビッグデータ分析やモノのインターネット(IoT)の導入でも高い水準にある。
OpenAIも、韓国が米国に次いで有料版ChatGPTの利用者が多い市場だとしている。こうした中、韓国企業のAI活用は、単一のチャットボットを試験導入する段階から一歩進み、産業別データや業務文脈に合わせて最適なAIモデルを組み合わせる方向に向かっている。
従来は組織の一部で個別にチャットボットを試すケースが中心だったが、足元では複数のAIエージェントが連携し、業務フローの設計から実行、拡張まで担うマルチエージェントシステムが新たな運用モデルとして浮上している。
重要なのは、あらゆる業務に対して高価で高性能な単一モデルを一律に適用することではない。企業に求められるのは、最新モデルを追うことではなく、自社の業務領域やドメイン知識を的確に扱える、信頼性の高いモデルを見極めることだ。
Databricksが世界2万社の匿名化データを分析してまとめた「AIエージェントに関する報告書」によると、ここ数カ月でマルチエージェントシステムの利用は327%増加した。企業の78%は、GPT、Claude、Llama、Gemini、Qwenなど、2種類以上の大規模言語モデル(LLM)を併用している。単一モデルに依存するのではなく、用途に応じて各モデルの強みを生かし、柔軟なAIスタックを構築している実態が浮かぶ。
■自動化が運用の拡張を後押し
先進企業では、専門化したAIエージェントが自ら計画を立て、複雑な業務を自律的に実行する仕組みの整備が進んでいる。大きな目標を細かなタスクに分解し、それぞれを分野別のエージェントに割り当てる。さらに構造化データと非構造化データを統合しながら、成果物を継続的に改善していく。
韓国でも、AIとデータプラットフォームの活用は企業の基幹業務に広がっている。例えばファッションプラットフォームのMUSINSAは、Databricks Lakehouseを活用し、大量の消費者データに基づくパーソナライズ推薦を提供するとともに、データ起点の意思決定体制を強化した。
注目すべきなのは、AIエージェントの普及が、企業の基盤となるデータインフラそのものに変化をもたらしている点だ。AIエージェントは単なるデータの利用主体にとどまらず、データベース(DB)運用にも関与する存在へと進化している。報告書によると、世界のデータベース構築の80%にAIエージェントが関与しており、テスト・開発環境ではその比率が97%に達するという。
AIエージェントを基盤とする自動化は、単純な反復作業の削減にとどまらない。より多くのデータと業務フローを接続し、拡張性のある運用体制の構築を後押しする。自動化の価値は個別業務の効率化だけではなく、全社的な意思決定と顧客体験を迅速に改善する基盤を整えることにある。
■本格展開の前提となるガバナンス
AI活用が広がるほど、「評価」と「ガバナンス」の重要性は増す。実験段階から本番環境へ安全に移行するには、モデル性能の高さだけでは不十分だ。信頼性、透明性、説明責任を担保する全社的な統制の仕組みが欠かせない。
Databricksの同報告書では、モデル出力を体系的に評価するフレームワークを備えた企業は、そうでない企業に比べて本番環境への展開成功率が約6倍高かった。さらに、強固なAIガバナンスに投資している企業は、実験段階のAIプロジェクトを実運用に移行できる成功率が12倍高いという。AIガバナンスはイノベーションを妨げる規制ではなく、安全なAI活用の拡大を支える推進力であることを示している。
こうしたガバナンスの土台があってこそ、企業はモデル選択の柔軟性を生かせる。高難度の推論に強いモデルもあれば、多言語コンテンツの生成やコード開発、業界特化の要約で力を発揮するモデルもある。単一ベンダーに依存せず、複数のモデル群を統合アーキテクチャの中で活用することで、性能、費用対効果、規制対応、事業レジリエンスを同時に最適化できる。
韓国企業のAI活用は、単一のチャットボットや単一モデルの導入を超え、産業別データと業務文脈に合わせてモデルやエージェントを柔軟に組み合わせる高度化の段階に入った。今後の競争力を左右するのは、こうした多面的な要素をどこまで体系的にオーケストレーションできるかにかかっている。
AI活用の高度化を目指す企業には、モデルの多様性を避けるべき複雑さとしてではなく、戦略資産として受け止める視点が求められる。分断されたデータインフラを整備し、信頼できるデータプラットフォームの上で、初期段階から評価とガバナンスをバランスよく構築することが当面の課題だ。マルチエージェントシステムを一時的な技術実験で終わらせず、デジタル運用モデルの中核基盤として定着させられるかどうかが、AIを単なる自動化ツールから、全社的な意思決定と顧客体験を変える拡張可能な原動力へと進化させる分岐点になる。