Microsoftのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は、AI時代の企業競争力を左右するのは優れたモデルの採用ではなく、人とAIが継続的に学び合う「学習ループ」の構築だとの考えを示した。
サティア・ナデラCEOはソーシャルメディア「X」(旧Twitter)への投稿で、今回のAIシフトは従来のデジタル変革とは本質的に異なると指摘した。
これまでのデジタルシステムは人の能力を補完する役割にとどまっていたが、いまは人とデジタルシステムの間に認知的なループが生まれつつあるという。単なるツール導入にとどまらず、企業が知識を蓄積し、差別化を図る方法そのものが変わるとした。
こうした変化に対応するには、2種類の資本を同時に育てる必要があると説明した。1つは、知識や判断、関係性、創造力を含む人的資本(Human Capital)。もう1つは、企業が自ら構築して保有するAIの能力、すなわちトークン資本(Token Capital)だ。
サティア・ナデラCEOは「AIの能力が高まっても、人的資本の価値が下がるわけではない。むしろ重要性は増す」とした上で、「目標を定め、領域をまたいで結び付け、重要なパターンを見いだすのは人間の役割であり、それがあって初めてAIも方向性を持てる」と述べた。人的資本とトークン資本がかみ合い、相互に成長する構造が必要だと強調した。
さらに「個々の作業だけでなく、職務そのものをAIに委ねることはできる。しかし、学習だけは委ねられない」とし、「企業の未来は、人とAIが共に積み上げた学習をどれだけうまく蓄積できるかにかかっている」と述べた。
具体策としては、社内の業務フローやドメイン知識、蓄積された判断をAIシステムに反映し、使うほど性能が高まる仕組みを整えるべきだとした。
その上で、「企業固有の成果指標に基づく社内評価の仕組み、実業務データを活用した強化学習の環境、組織の記憶を検索可能にする知識基盤が必要だ」と説明し、「こうした学習ループ自体が企業の新たな知的財産(IP)になる」と述べた。
一方で、少数のAIモデルがあらゆる産業の知識を吸い上げ、独占する構図には警鐘を鳴らした。「1990年代のグローバル化の波の中でアウトソーシングが広がり、最終的に産業の空洞化につながった。AI時代に同じ過ちを繰り返してはならない」と指摘した。
さらに「一部のAI企業だけが利益を得る一方で、他の企業が積み上げた知識が無償で奪われる状況を、社会が黙認することはない」とも述べた。
その代案として、フロンティアモデルそのものより、幅広い企業や産業、国々の間で価値が循環するエコシステムを重視すべきだと訴えた。
サティア・ナデラCEOは「プラットフォームは価値を持ち去るのではなく、その上でより多くの価値を生み出すものであるべきだ」とした上で、「すべての企業が自らの学習ループを持ち、人的資本とAI資本をともに積み上げていくこと。それこそが、私たちが共に築くべき安定した均衡だ」と述べた。