WWDCを前に報じられた新Siriのレンダリング画像(写真=Bloomberg)

Appleが、iPhoneのOS全体にAI機能を組み込んだ新しいSiriと、専用のSiriアプリを準備していることが分かった。米TechCrunchなど海外メディアが5月28日(現地時間)に報じた。WWDCを前に公開されたレンダリング画像からは、SiriをChatGPTのような対話型AIへ再設計する構想が浮かび上がっている。

今回の刷新の軸となるのは、Siriを従来の音声アシスタントから、iPhoneの検索と操作を担う標準インターフェースへ拡張する点だ。従来通りボタン操作で呼び出せる一方、応答やアニメーションはiPhone上部のDynamic Islandに表示する設計になるという。音声による簡単な問い合わせや即時検索を、より自然に処理する狙いとみられる。

検索まわりの導線も変わる見通しだ。画面を下にスワイプしてSpotlight検索を開く従来の操作は維持しつつ、検索結果の生成や指示の実行はAIベースのSiriが担う構造になるとされる。既存の検索窓は残しながら、背後の処理をAI中心に置き換える形だ。報道によると、この新しいSiriは再構築したAIモデルで動作し、一部でGoogleのGemini技術を活用する可能性がある。

対応範囲は検索にとどまらない。アプリの起動、メッセージ送信、天気の確認、予定の追加、メモの検索、ショートカット実行まで幅広くカバーし、結果はカード型の構造化されたテキストで表示されるという。Dynamic Islandとの連携も含め、AppleはSiriを単独機能ではなく、OS全体に溶け込む基盤ツールとして再配置しようとしているようだ。

専用のSiriアプリも用意される見込みだ。過去の会話履歴を確認できるほか、テキスト入力に加えて文書や写真のアップロードにも対応するとされる。Siriを、ChatGPTやAnthropicのClaude、Geminiと競合する独立型AIチャットボットへ広げる戦略がうかがえる。

処理基盤も大きく変わる。新しいSiriは、iPhone上で処理するオンデバイスAIとクラウド側の演算を組み合わせたハイブリッド構成で設計される見通しだ。Appleはこれまで、個人情報保護の観点からオンデバイス処理の優位性を強調してきたが、今回の刷新では一部の処理をクラウドに委ねる方向へかじを切る可能性がある。

背景には、スマートフォンのハードウェア制約がある。最新チップでAI性能は高まっているものの、大規模言語モデルを端末内だけで十分に動かすには限界が大きい。スマートフォンは大規模モデルを収めるだけのRAMが限られ、端末向けモデルは数十億規模のパラメータに制約されやすい。一方で、Geminiの最新モデルは数兆規模のパラメータを使うとされる。端末向けモデルでは高速化のため量子化処理が行われるが、そのぶんトークン生成の精度に影響する可能性もある。

Googleもモバイル向けの軽量モデル「Gemini Nano」を展開しているが、文脈要約や音声処理など用途は比較的限定的とされる。これに対しSiriは、ユーザーの指示を受けて実際の操作や処理を実行する対話型アシスタントとしての性格が強い。

このためAppleは、Googleの大規模なクラウド型Geminiモデルの性能を小型モデルに移す「蒸留」の手法を取り入れたと報じられている。単純な依頼は端末側で処理し、複雑な依頼はクラウドへ回すことで、応答速度と性能を両立させる狙いがあるとみられる。

もっとも、Appleのクラウド基盤だけで大規模モデルを安定運用するのは容易ではないとの見方もある。AppleはMac向けMシリーズチップを基盤とする「Private Cloud Compute」を構築しているが、Gemini級の大規模モデルを常時動かすには負荷が大きい可能性がある。そのため、一部の複雑なリクエストはAppleの基盤ではなく、Google Cloud側で処理されるとも伝えられている。

この過程では、NVIDIAも重要な役割を担う見通しだ。報道によると、AppleはGoogleのTPUではなく、NVIDIAの「Confidential Computing」プラットフォームを活用する契約を結んだという。クラウド上でデータを処理する間も、GPU内部で暗号化状態を維持する仕組みで、クラウド依存を高めながらも個人情報保護の方針を一定程度保てる可能性がある。Private Cloud Computeのブランドを、この仕組みにも適用する可能性があるとの見方も出ている。

競争環境でAppleの最大の強みは、圧倒的なユーザー基盤だ。ChatGPTの週間アクティブユーザー数は約9億人規模とされる一方、Appleの端末インストールベースはiPhoneを含む全製品で約25億台に達する。Appleは、まだ他のAIサービスを積極的に使っていない大規模ユーザー層に対し、Siriを通じてAI機能を直接届けられる立場にある。

今回のSiri刷新は、単なる機能追加ではなく、AppleのAI展開戦略そのものといえる。Dynamic Island、Spotlight検索、専用チャットアプリを1つのユーザーフローに統合し、利用のハードルを下げる設計だからだ。WWDCで実際にこの方向性が示されれば、Siriは従来の音声アシスタントから、iPhoneにおけるAIの入口へと再定義される可能性が高い。

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