技術業界で、経営トップがAIの自動化能力を過大評価しているとの批判が強まっている。Box創業者のアーロン・レヴィ氏は、CEOが現場実務とかけ離れたままAIを判断し、人員削減の根拠として使いかねないと警鐘を鳴らした。研究面でも、AI導入がそのまま生産性向上に直結するとの見方を裏付ける材料はなお限られている。
米ITメディアTechCrunchが27日(現地時間)に報じたところによると、レヴィ氏は足元の業界動向について、「CEOが集団でAIの妄想に陥っているように見える」と指摘した。
同氏はX(旧Twitter)への投稿で、経営陣は現場から距離があるため、AIによる自動化の可能性を過信しやすいと説明した。「CEOはAIによる妄想にとりわけ脆弱だ」としたうえで、プロトタイプの作成や契約書のドラフト生成といった一部工程だけを見て、AIエージェントが実務全体を代替できると考えがちだと述べた。
レヴィ氏は、AIが成果物を出力した後にも、人の関与が必要な工程は数多く残ると強調した。たとえば、ソフトウェア公開前のコードレビューやバグ修正、実在しないライブラリ呼び出しの確認などは、最終的に熟練した開発者が担うことになるという。
また、企業ごとの契約条件を反映したモデル学習や、契約書に潜む条項の精査についても、完全自動化にはなお距離があるとの見方を示した。
こうした指摘は、足元のテック業界で続く大規模な人員削減の流れとも重なる。レイオフ集計サイト「Layoffs.fyi」によると、2026年1〜5月にテック企業152社が計11万5430人を削減した。
この規模は、2025年通年の削減人数である12万4636人(275社)に迫る水準だ。業界では、多くの企業がAIを人員削減の名目として掲げる一方、実態としては事業の減速やコスト削減を「AIによる生産性向上」として見せているケースも少なくないとの批判が出ている。
業務管理プラットフォームのClickUpは、その象徴的な例として挙げられている。ゼブ・エバンスCEOは、社内業務に約3000のAIエージェントを導入した後、従業員のおよそ22%を削減したと公表した。
同氏はこれについて、単なるコスト削減ではなく、「AIエージェントを管理し、その結果を迅速にレビューする組織への転換」だと説明し、いわゆる「100倍組織(100x organization)」の構想を示した。
もっとも、AI導入が直ちに生産性革命につながるとの主張を、既存研究が十分に支えているわけではない。UCバークレーのメタ分析を掲載したCalifornia Management Reviewは、AI導入と全体の生産性向上の間に「強固な関係はない」と分析した。
米国立経済研究所(NBER)の研究も、AIが一部で生産性改善をもたらす可能性を認めつつ、実際に測定できる成果よりも期待が先行する「生産性パラドックス」が存在すると指摘した。
現場業務の代替可能性についても、見方はなお慎重だ。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、数千件のAIエージェント実験の結果、多くの作業で人間並みの品質には到達しなかったと明らかにした。
同チームは、現在の大規模言語モデル(LLM)の進化ペースを前提にすると、2029年ごろにはテキストベース業務の大半を、最低限の実務品質基準で80〜95%の水準までこなせる可能性があると予測した。一方で、人間を上回る水準に達するには、なお時間がかかると分析している。
AIの活用拡大が、新たなボトルネックを生む可能性も指摘されている。Harvard Business Review(HBR)掲載の研究は、組織の構成員がAIによってより多くの成果物を生み出すようになるほど、最終承認権限を持つ経営陣が新たなボトルネックになり得ると分析した。
承認待ちの案件が急増し、組織運営の負荷が高まるおそれがあるという。
レヴィ氏は、経営陣がAIを表面的に試すだけでは不十分だと強調した。「CEOはAIを本当にたくさん使ってみるべきだ」としたうえで、その過程でAIの可能性だけでなく、なお人間の労働が必要な領域も理解できるようになると述べた。
テック企業がAIを人員削減や組織再編の中核論理として掲げる動きが広がるなか、問われているのはAI活用の是非そのものではない。自動化できる範囲と、人が担うべき領域を経営陣がどこまで正確に見極められるかが、改めて焦点になっている。