米ニューヨーク州で、長期にわたり動きのないビットコインを「放棄財産」とみなし、所有権の移転を求める訴訟が提起された。対象は3万9069ウォレット、保有額は約370万BTCに上るとされる。ただ、ビットコインは秘密鍵がなければ移転できないため、仮に請求が認められても実際の執行は難しいとの見方が強い。
ブロックチェーンメディアのCryptoPolitanによると、匿名の原告「Noah Doe」は25日(現地時間)、ニューヨーク州の遺失財産法に基づき提訴した。長期間動きのないビットコインは、実質的に放棄された財産に当たると主張している。
訴訟の対象となったのは計3万9069のビットコインウォレット。原告側は、これらのウォレットに約370万BTCが保管されていると推計しており、足元の相場では約2900億ドル(約43兆5000億円)規模に相当するとしている。
訴状は、ワイオミング州で設立したペーパーカンパニー2社(ABC Company、XYZ Company)を通じて、5月1日にニューヨークの裁判所へ提出された。文書は901ページに及ぶという。
原告側は、長期休眠ウォレットは事実上放置された状態にあると主張。該当アドレスをニューヨーク市警に届け出たほか、オンチェーンでの告知やプレスリリースの配布を経て、訴訟手続きに進んだと説明している。
今回の訴訟には、Satoshi Nakamotoのものと推定されるアドレスや、Mt. Goxのハッキングに関連するとされるアドレスなどが含まれるとされ、市場の関心を集めた。
一方、暗号資産業界では法的な議論とは別に、実際に執行できるのかを疑問視する声が強い。オンチェーン分析プラットフォームTimechain Indexの創設者サニは、最大の論点として「通知先アドレスが誤っている可能性」を挙げた。
サニによると、Satoshi Nakamotoの時代の初期ビットコインの相当数は、公開鍵ベースのP2PK(pay-to-public-key)形式で保管されている。これに対し原告側は、対応するP2PKH(pay-to-public-key-hash)アドレスに法的通知を送ったとしており、この違いによって通知が全く別のアドレスに送られた可能性があるという。
また、仮に裁判所が原告側の主張を認めたとしても、実際にビットコインを移転できるかは別問題だ。ビットコインのネットワークでは、当該ウォレットの秘密鍵を保有していなければ資金を動かせないためだ。
Rippleの最高技術責任者(CTO)デイビッド・シュワルツも、裁判所の判断が出ても、ビットコインネットワーク上での実効性は限定的だとの見方を示した。さらにBitcoinSV(BSV)については、「BSVなら受け入れるかもしれない」と付け加えた。
今回の訴訟は、長期休眠ビットコインの扱いを改めて浮き彫りにした点でも注目されている。特に、公開鍵がすでにオンチェーン上で露出している初期のP2PKアドレスについては、将来量子コンピューターが実用化した場合、セキュリティ上の脆弱性が高まるとの懸念が以前から指摘されてきた。
実際、今年4月に提案されたビットコイン改善提案(BIP)361では、量子コンピューターに対して脆弱になり得る旧式P2PKアドレスを段階的に凍結し、既存の署名体系を数年かけて廃止する案が示された。対象はビットコイン供給量の約34%に当たる670万BTCとされ、Satoshi Nakamotoが保有すると推定される約110万BTCも含まれるという。
また、Paradigmの研究員ダン・ロビンソンは5月1日、「PACT」と呼ぶ新たな概念を公表した。保有者がコインを実際に動かさず、身元も明かさないまま、秘密鍵の支配権を証明できるようにするアイデアだ。
今回の訴訟では、法的な所有権の主張そのものよりも、分散型ネットワーク上でそれをどう実現するかが主要な争点となっている。原告側が長期休眠ビットコインに「無主物」の考え方を当てはめて権利を主張しても、秘密鍵がなければ強制移転は事実上できないためだ。通知先アドレスの適切性にも疑義が出ており、訴訟が実質的な判断にまで進むかはなお不透明だ。