楽しかった出来事を忘れてしまうのは、脳の保存容量が不足しているためではない。脳は体験した情報をそのまま蓄積するのではなく、注意や感情に応じて選び取り、思い出すたびに記憶を再構成している――。そんな記憶の仕組みについての見方を、Gigazineが4月28日に報じた。
同記事によると、英国ブリストル大学の解剖学教授、ミシェル・スピア氏は、同じ体験でも人によって記憶の残り方が大きく異なる理由を説明した。
スピア氏は、自身が夫と過去の休暇を振り返った際、自分は覚えていない楽しい場面を夫が鮮明に記憶していたことに驚いたという。こうした経験は、記憶が人によって異なる形で形成されることを示しているとした。
脳は、コンピュータのように情報をそのまま保存しているわけではない。人は1日に膨大な視覚情報や聴覚情報、会話に触れるが、そのすべてを処理することはできない。このため脳は、注意が向いた情報や感情的な影響が大きかった出来事を優先して記憶に残すという。
そのうえで、海馬が長期記憶として定着させる情報を選別する。注意が散漫な状態では、体験の一部が十分に記憶されないこともある。同じ場面にいても、ある人は集中して内容を記憶する一方、別の人は別のことを考えていて、記憶が弱く残る可能性があるとしている。
また、記憶は固定されたファイルのように保存されるわけでもない。人は記憶を呼び起こす際、感覚情報や既存の知識、期待などを組み合わせながら内容を再構成する。このため、記憶は想起や会話を繰り返すなかで、より安定したものへと変わっていくという。
スピア氏は、「頭がいっぱいだ」と感じることが、そのまま長期記憶の容量の限界を意味するわけではないとも説明した。限界があるのは主に注意力や作業記憶の処理能力で、過負荷の状態では新しい情報が十分に記憶へ定着しにくくなるという。
脳の記憶は、作業記憶がコンピュータのRAM、長期記憶がハードディスクにたとえられることもある。ただ実際には、記憶は個別のファイルのように保存されるのではなく、ニューロンのネットワーク全体に分散しており、想起の過程で姿を変え続けるとしている。
脳の記憶容量は約1ペタバイトと推定されることもあるが、記憶そのものは固定されたデータではなく、継続的に再構成される構造だ。時間の経過とともに記憶が薄れるのは、保存容量が足りないからではなく、繰り返し思い出す機会や体験同士の結び付きが不足するためだと説明されている。
思い出せない記憶も、多くは完全に失われたというより、取り出しにくくなっている状態に近いという。