人工知能(AI)向け需要の急増で、高多層の印刷回路基板「MLB(Multi-Layer Board)」の供給不足が続いている。こうした中、防衛・宇宙航空分野でも需要拡大が見込まれており、需給逼迫がさらに強まる可能性が出てきた。
MLBは回路層を多層に積層した基板で、AIアクセラレーターやネットワーク機器の中核部品として使われる。一般的な電子機器向け基板と比べ、過酷な環境下でも長期間安定して動作する高い信頼性が求められるのが特徴だ。
業界では、MLBの需要先がAI以外にも広がっているとの見方が強い。軍用機器向けでは、極端な温度変化や振動、衝撃に耐えながら数十年にわたる動作が求められる。衛星向けでも、宇宙放射線や大きな温度変化にさらされる環境下で、修理なしに10年以上の耐久性が必要とされる。防衛・宇宙航空は、高信頼性MLBの新たな需要源になりつつある。
宇宙航空分野の需要は、今年から本格的に拡大する見通しだ。Hanwha Investment & Securitiesが宇宙航空庁の統計を基にまとめたところでは、国内の超小型・小型衛星の打ち上げ数は2025年の14機から、2028年に100機、2030年には185機へ増える見込み。低軌道(LEO)の小型衛星は寿命が3〜5年と短く、コンステレーション運用に伴う継続的な製造需要が発生する。衛星製造のリードタイムが1〜2年であることを踏まえると、量産案件の受注は2026〜2027年に始まる可能性が高い。
防衛需要も拡大基調にある。韓国軍は2030年代初頭までに、最大130機規模の低軌道偵察衛星の配備を進める方針で、「425事業」の後続案件や超小型衛星体系事業が順次進む見通しだ。Cheongung-IIなどの兵器システムの輸出実績を背景に、防衛輸出の領域が衛星やISR(情報・監視・偵察)システムへ広がる可能性も高い。
◆供給先は限定、需要急増で既存事業者が優位に
問題は、こうした需要拡大がすでに供給不足にある市場で起きていることだ。MLBはAIアクセラレーターやネットワーク機器向け需要の急増を受け、すでに構造的な供給不足の局面に入っている。
NVIDIAのH100やB200といったAIアクセラレーターは、数百〜数千ワット級の電力を消費しながら超高速信号を処理する。このため基板には、20層以上の高多層構造に加え、精密なインピーダンス制御や大電流伝送能力が同時に求められる。ここに防衛・宇宙航空向け需要が加わることで、供給逼迫は一段と深まるとの見方が出ている。
業界では、基板のバリューチェーンにおける需給逼迫の度合いを「MLB > BVH HDI > ガラス繊維 > CCL > 回路箔」の順でみている。中でもMLBの供給不足が最も深刻とされるのは、供給先が限られるうえ、高信頼性製品という特性から、生産能力の増強や認証取得に数年を要するためだ。いったん供給実績を積み上げた企業は、顧客が調達先を簡単に切り替えにくく、逼迫局面では既存事業者の競争優位がむしろ強まりやすい。
MLBの不足が深刻化すれば、価格上昇は避けにくい。需要が供給を恒常的に上回る局面では、供給企業の価格交渉力が高まり、平均販売単価(ASP)の上昇や収益性の改善につながる。とりわけAIアクセラレーター向けや防衛・衛星向けのMLBは代替調達先の確保が難しく、顧客が値上げを受け入れざるを得ない構造にある。
一方、需要側ではボトルネックのリスクが高まる。AIサーバーメーカー、衛星メーカーのいずれにとっても、MLBの確保状況は生産計画を左右する要因になり得る。納期遅延が発生すれば、データセンター建設のスケジュールがずれ込んだり、衛星の量産計画に支障が出たりする可能性がある。高帯域幅メモリ(HBM)で広がっている長期供給契約(LTA)の流れが、基板市場にも波及する可能性が大きい。業界関係者は「参入障壁が高いため、既存の基板メーカーを中心とする市場構造がさらに強まる」と話している。