韓国大統領が蔚山AIデータセンター発足式典の展示会場で半導体チップを視察している。写真=大統領府

AI半導体の需要構造が変わり始めている。これまで需要をけん引してきたのはハイパースケーラーだったが、足元では「ソブリンAI」を掲げる国家・公共分野が新たな市場として台頭。GPU中心だった需要は、CPUやメモリ、パッケージングまで含む形へ広がっている。

背景にあるのがソブリンAIの拡大だ。これは、各国や各組織が自国の法規制の枠内でAIを独立して管理・統制する能力を指す。

欧州連合(EU)のAI法や、米国のCLOUD Actの域外適用などを受け、米ハイパースケーラーへの依存を構造リスクとみなす動きが強まっている。各国で自前のAIインフラを整備する流れが加速しているのはそのためだ。Nvidiaのジェンスン・フアンCEOが3月のGPU技術カンファレンス「GTC」で、国家がデータセンターを直接保有すべきだと述べたのも、こうした潮流を反映した発言といえる。

とくに変化を速めているのが、エージェンティックAIの普及だ。トークン生成は主にGPUが担う一方、エージェントが別のエージェントを生成し、24時間稼働する環境では、トークンのスケジューリングやオーケストレーション、サービス管理などでCPUの役割が大きくなる。

Armのレネ・ハースCEOは、AGI向けCPU製品の発表に際し、「エージェンティックAI環境ではCPU需要が4倍に増える。これは保守的な見通しだ」と説明した。こうした需要を国単位で押し上げる要因として、ソブリンAIが浮上している。

市場の広がりは数字にも表れている。キョボ証券によると、Nvidiaの2026会計年度(FY2026)におけるソブリンAI関連売上高は前年比で3倍超となり、300億ドル(約4兆5000億円)を上回った。

調査会社Gartnerは、AIクラウド市場が2030年に2670億ドル(約40兆500億円)へ拡大し、このうちソブリン特化型のネオクラウドが20%を占めると予測する。独自のAIスタック構築を目指す国は、国内総生産(GDP)の少なくとも1%をインフラに投資すべきだとの分析も出ている。

半導体業界の視点で見ると、こうした需要の伸びには従来と異なる特徴がある。ソブリンAI向け環境では、電力や冷却、設置スペースの制約が大きい。このため、超大型クラウドのように絶対性能を最優先するのではなく、電力効率やCPU・メモリを含むシステム全体の統合が重視されやすい。

業界では、必ずしも超大型のクラウド級システムが必要なのではなく、用途に見合った規模のインフラを構築する方向へシフトしているとの見方が広がっている。大規模言語モデル(LLM)に加え、ビジョン言語モデル(VLM)などモデルの多様化が進み、基地局や中継局といったネットワークエッジで適正規模のモデルを運用する流れも強まっているためだ。

◆需要はGPUからCPU・メモリ・パッケージングへ拡大

NvidiaがGPUに加え、自社開発のカスタムCPU「Vera Rubin」に注力する理由もそこにある。Armも自社設計のサーバーCPU「AGI CPU」を公開し、この市場への本格参入を進めている。同社は同一電力当たりの性能を2倍に高めるとし、x86の置き換えを狙う。

Armは、既存ソリューションでは顧客ニーズを満たしきれず、直接的な技術支援を求める声が増えていると説明している。電力や冷却に制約のあるソブリンAI向け環境に最適化した設計であり、ソブリンAIの拡大が同社のサーバーチップ市場参入を後押しする構図だ。

韓国でも、ソブリンAI向けインフラ投資がチップ需要につながる構造が形成されつつある。キョボ証券によると、韓国は9兆9000億ウォンのAI予算を編成し、第1次事業では1兆4000億ウォンを投じてGPU1万3000基を確保した。

事業者にはNHN Cloud、Naver Cloud、Kakaoが選定された。NHN Cloudは民間向け活用分とは別に外部供給も進め、5年間で約3000億ウォンの売上高を見込む。

第2次事業は約2兆805億ウォン規模で、Blackwell~Vera Rubin級の最新GPUの追加調達と、常時利用可能なGPUaaS体制の構築を目的とする。GPUの導入拡大に伴い、サーバーCPUやメモリ、パッケージングまで需要が波及する見通しだ。

Gartnerが、2030年までに欧州・中東企業の75%以上がワークロードを自国ソリューションへ移行すると予測するように、この動きは一時的な政策需要にとどまらない。チップ業界にとっては、顧客層の多様化と製品ポートフォリオ拡大が同時に進む構造変化となる可能性がある。

ソブリンAI需要がハイパースケーラー級の規模へ拡大するほど、AI半導体市場はGPU単独の軸から、CPUやメモリ、パッケージングを含む多層的な市場へ移行していく。需要が多様化するなかで、求められるのは個別チップの性能だけではない。業界関係者は「最終的にはチップとシステムの統合力が重要になる」と指摘している。

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