Armは25日、データセンター向けCPU「Arm AGI CPU」を発表し、量産シリコン事業に参入すると明らかにした。30年以上にわたりIPライセンス供与を主軸としてきたが、今後は自社でチップを設計・供給する領域にも踏み込む。エージェンティックAIの普及でデータセンター向けCPU需要が拡大するなか、事業構造の転換を進める格好だ。
新製品はArm Neoverse V3アーキテクチャをベースとし、1CPU当たり最大136コアを搭載する。Armによると、x86プラットフォームと比べてラック当たり2倍超の性能を実現できるといい、コア当たりのメモリ帯域は6GB/s、レイテンシーは100ns未満に対応する。
冷却方式別では、空冷構成でラック当たり最大8160コア、水冷構成では4万5000コア超を想定する。TDPは300ワット。各プログラムスレッドに専用コアを割り当てる設計とし、持続的な高負荷時でもスロットリングを抑え、安定した性能を提供するとしている。
ルネ・ハースCEOは「パートナーに高性能かつ高効率のコンピューティングに向けた選択肢を広げ、世界のエージェンティックAIインフラ構築を後押しできるようになった」と説明した。Armは今回の参入により、従来のIPライセンス、コンピューティング・サブシステム(CSS)、そして直接設計したシリコンという3層の選択肢をエコシステムに提示する考えだ。
背景には、エージェンティックAIへの移行に伴うCPU需要の急増がある。Armによると、従来のAIデータセンターでは1ギガワット当たり約3000万CPUコアが必要だったが、エージェント型ワークロードへ移行すると必要なコア数は1億2000万に増え、4倍超に膨らむと見込む。
エージェントは推論、計画、実行を繰り返し、人間と比べてトークン生成量を最大15倍まで押し上げる。アクセラレータがトークンを生成した後の処理や調整、ルーティングはCPUが担うため、24時間絶え間なくリクエストが流れる環境では、CPUのボトルネックがアクセラレータの稼働効率を左右する構図になっている。ハースCEOは「誰かがダンプカーで土を運べば、その土を片付ける役割が必要になる。それがCPUだ」と述べ、エージェンティックAIがこうした傾向をさらに強めるとの見方を示した。
Metaとは約2年半をかけて共同開発した。Metaのインフラ責任者、サントシ・ヤナルダン氏は「性能を維持しながらワット当たりのコア数を増やせるパートナーを市場全体で探したが、性能を優先すれば電力が課題となり、電力を抑えれば性能が不足した。Armが唯一の答えだった」と語った。そのうえで「これはMeta専用チップではなく、エコシステム全体を支える基盤CPUだ」と強調した。
MetaはPrometheusクラスターだけで年内に1ギガワット超の容量を備え、Hyperionクラスターは数年以内に5ギガワットまで拡張する計画という。Arm AGI CPUを自社のAIアクセラレータ「MTIA」と組み合わせ、大規模AIシステムのオーケストレーション効率を高める狙いだ。
両社は初代製品にとどまらず、次世代ロードマップ全体にわたって協力を続ける方針だ。ヤナルダン氏は「既存の強者に挑戦すれば、エコシステム全体でイノベーションが起きる」と述べ、後続世代では性能が複数の軸で拡張していくとの見通しを示した。
サプライチェーンでは、Samsung ElectronicsとSK hynixの役割も注目される。Samsung Electronicsの副会長、チョン・ヨンヒョン氏は、性能向上の鍵がロジック、メモリ、先端パッケージング技術をまたぐ緊密な共同最適化にあるとの認識を示したうえで、「Arm AGI CPUのような特定用途向けAIコンピューティングプラットフォームは、シリコン設計、メモリ統合、先端プロセスを活用した製造技術まで含め、より緊密な協力を可能にする」と述べた。Samsung Electronicsは、ファウンドリー、メモリ、パッケージングを垂直統合した強みを背景に、Armのシリコンエコシステム内で存在感を高める可能性がある。
SK hynixの社長、クァク・ノジョン氏は「AIデータセンターの進化に伴い、AIワークロードに最適化したプラットフォームには、最新アプリケーションに必要な容量と帯域を支える先端メモリ技術が不可欠だ」と述べ、「次世代AIインフラの発展に向け、Armとのパートナーシップが継続することを期待している」とした。CPUコア数が4倍に増えれば、メモリ帯域の需要も比例して拡大するため、HBMを含む高帯域メモリの需要増につながる可能性がある。
Armがシリコン事業まで領域を広げることで、CPU設計とメモリ、パッケージング統合の最適化需要も一段と高まりそうだ。Arm CSSが導入後3〜4年でロイヤルティ売上高の約20%に迫った先例を踏まえると、シリコン事業がどの程度のスピードで立ち上がるかも焦点となる。Meta以外の主要ODMも生産に参加する構造であるだけに、サプライチェーンへの組み込みが広がるほど、Samsung ElectronicsやSK hynixなどパートナー企業への波及効果も具体化しそうだ。