ソフトウェア開発は、AIの影響が最も大きく表れている分野の1つだ。各業界でAI導入が進む中でも、変化の速さと影響範囲の広さではソフトウェア開発が際立っている。
こうした動きを受け、フリーランスジャーナリストのクライヴ・トムソンは、大企業からスタートアップまで70人以上のソフトウェア開発者を取材し、AIが現場に及ぼしている変化を探った。
大勢としては、開発者はAIによるコーディング自動化を脅威として受け止めるより、前向きに評価している。ほかの職種ではAIに対して中立的、あるいは懐疑的な見方も少なくなく、プログラマーはホワイトカラーの中でも代替リスクが高いと指摘されてきた。それでも開発現場では、比較的受容的な姿勢が目立つ。
トムソンが取材した開発者の多くは、反発や不安よりも、AIによる変化そのものに強い関心を示していた。懸念や戸惑いの声がないわけではないが、全体としては歓迎する空気が強い。
その背景には、AIが代替する業務の性質がある。トムソンによれば、他の創作分野では、作り手の個性や創造性が色濃く出る部分をAIが置き換え、人間には単純作業が残りやすい。一方、ソフトウェア開発では、反復的で時間を要する実装を主にAIが担う。このため開発者は、より本質的な仕事に集中しやすくなったという。
1972年からコーディングに携わり、開発者コミュニティで巨匠として知られるケント・ベックは、約10年前、当時のプログラミング言語やソフトウェアツールに失望し、開発の第一線からほぼ退いていた。だがLLMの登場を機に、再び開発に戻った。The New York Timesによると、現在は個人向けメモアプリや新型データベースなど、以前にも増して多くのプロジェクトを手掛けている。
AIによるコーディング自動化は、ソフトウェア開発の歴史の中で見れば、まったくの新現象ではない。現場では長年にわたり、「抽象化」の名の下で煩雑な作業を自動化する取り組みが積み重ねられてきた。
1980〜90年代には、計算機性能の向上を背景に、複雑で煩雑なメモリ管理を自動化するPythonのような言語が登場した。2000年代から2010年代にかけても、この流れは加速した。The New York Timesは、開発者が難しい作業に直面するたびに自動化コードを書き、それをオープンソースとして公開し、他の開発者が使えるようにしてきたと伝えている。
AIコーディングも、その延長線上にある。The New York Timesは「ソフトウェアを書くことは、もはやPythonやJavaScript、Rustの微妙な違いを頭の中で処理することを意味しない。アルゴリズムを分解し、エラー箇所を突き止める作業さえ抽象化されつつある」と報じた。
コーディングの抽象化が進む中で、プログラマーの役割も変わり始めた。AnthropicでコーディングAIサービス「Claude Code」を統括するボリス・チェルニーは、コーダーはもはや建設作業員ではなく、建築家に近い存在になりつつあると語る。
AIを使う開発者は、ソフトウェア全体の構造や、機能同士がどう連携するかに重点を置くようになる。エージェントが生成するコードを高速に生成するため、人間はその有効性を見極め、使えるものを採用し、不要なものを捨てるといった試行錯誤を重ねやすい。トムソンは、開発者の仕事は「創造」よりも「判断」に近づいているとまとめている。
もっとも、AIコーディングによる生産性向上の度合いには差がある。とりわけスタートアップと既存企業では開きが大きい。ゼロから開発を始められるか、それとも既存のコードベースとの整合性を考慮しなければならないかの違いが大きいためだ。
起業家のディマ・ヤノフスキーは、Claude Codeを活用することで、以前は数週間かかっていた作業を数時間で終えられるようになったと説明する。一方、既存企業では事情が異なる。Googleのスンダー・ピチャイCEOは、Googleのような成熟したテック企業でAIがプログラマーの生産性を押し上げる効果は、数値化すると10%程度にとどまると述べている。考慮すべき要素が多いためだ。The New York Timesによると、取材したスタートアップ創業者の中にはコードのほぼ100%をAIで書くケースがある一方、Googleではその比率が50%未満だという。
サーバー管理のように煩雑な作業が多い領域でも、AIとの相性の良さが目立つ。AIは自然言語とプログラミング言語の双方を扱えるため、システム障害レポートの解釈やコード分析をこなし、場合によっては担当者が起きる前に解決策を提示することもある。トムソンは、Amazon Web Services(AWS)で働くデイビッド・ヤナチェクを取材し、従来はエンジニアチームが8時間かけていたデバッグを、AIエージェントが15分で解決した事例を紹介している。