Samsung Electronicsがドイツを軸に、車載分野とAIデータセンター冷却分野の2本柱でバリューチェーン強化を進めている。SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)への移行とAIインフラ需要の拡大という2つの潮流を取り込み、ドイツを戦略拠点として活用する構えだ。
1つは、半導体の競争力を車載チップや電装システムへつなげる軸。もう1つは、半導体事業を起点にAIサーバーやデータセンター冷却へ展開する軸だ。Samsung Electronicsはこの2分野で事業連携を同時に深めている。
デバイスソリューション(DS)部門はこのほど、車載インフォテインメント(IVI)向けプロセッサ「Exynos Auto V720」をBMWの新型「New iX3」に供給した。BMWの次世代電動車プラットフォーム「Neue Klasse」を採用する初の量産車に、Samsung Electronics製チップが採用された格好だ。
今後はBMW 7シリーズにも、5ナノメートルプロセスベースの「Exynos Auto V920」が搭載される。V920は英Armの最新車載向けCPUを10基搭載するデカコアプロセッサで、従来製品比でCPU性能は1.7倍、GPU性能は2倍、AI演算性能は2.7倍に高まった。
LPDDR5に対応し、最大6基の高解像度ディスプレイと12基のカメラセンサーを同時に制御できる点も特徴としている。
これに先立ち、Samsung Electronics傘下のHarmanはドイツZFのADAS事業を2兆6000億ウォンで買収した。ZFはADASスマートカメラ市場で首位とされる。
Samsung ElectronicsによるHarman買収以降では、8年ぶりの大型電装M&Aとなる。
Harmanのクリスチャン・ソボトカCEOは「デジタルコクピットとADASの統合が進む電装市場において、中央集約型統合コントローラを供給するための戦略的基盤を整えた」とコメントした。
同CEOが成長分野として挙げた中央集約型コントローラ市場は、年平均12%での拡大が見込まれている。市場規模は2025年の62兆6000億ウォンから、2035年には189兆3000億ウォンに拡大する見通しだ。
中央集約型コントローラは、OTAでソフトウェア機能を更新できることから、SDV時代の中核技術と位置付けられている。Samsung Electronicsは2017年のHarman買収後、関連売上高を7兆1000億ウォンから2024年には14兆3000億ウォンへと倍増させており、今回の買収も長期成長を見据えた投資とみられる。
同社は2030年までに、電装・オーディオ事業の売上高を200億ドル(約3兆円)以上に引き上げる目標を掲げている。
一方、AIデータセンター冷却事業でもドイツが重要拠点となっている。Samsung Electronicsは昨年11月、ドイツのFlaktGroupの買収を完了した。1909年創業のFlaktGroupは欧州有数の空調機器メーカーで、データセンター冷却分野で60年以上の実績を持つ。
FlaktGroupのデイビッド・ドニーCEOは社内ニュースルームのインタビューで、「1964年に最初の電算室向け空調装置を披露して以来、60年以上にわたり関連ソリューションを提供してきた」と述べた。
同社は世界10カ所以上に生産拠点を持ち、欧州、米州、中東、アジアに販売網を展開する。世界的な大規模AIインフラ計画「Stargate」にも参加しているという。
Samsung Electronicsは、FlaktGroupの高精度空調制御システムと自社のAIベースのビル統合制御プラットフォームを組み合わせ、次世代データセンター市場の開拓を進める方針だ。
Samsung ElectronicsのDX部門長、ノ・テムン氏は以前、「FlaktGroupの買収は、世界の空調市場で主導権を確保し、顧客に革新的なソリューションを提供するための戦略的決定だ。FlaktGroupの技術力とSamsung ElectronicsのAIプラットフォームを組み合わせ、グローバル空調市場をリードする企業を目指す」と説明していた。
Samsung Electronicsは、ドイツでの買収や提携、製品供給を通じ、SDVとAIの成長領域を同時に取り込もうとしている。半導体の競争力を車載チップ供給へ広げ、さらに電装システムの統合へつなげる構図だ。
2024年4月には、イ・ジェヨンSamsung Electronics会長がドイツの光学機器メーカーZeissを訪問し、先端半導体製造装置分野での協力を模索した。ZeissはEUV露光装置の中核部品である光学系の供給企業として知られる。
半導体製造の競争力強化を、車載半導体やAIサーバー向け半導体の供給拡大へ結び付ける狙いがある。
同時に、AIコンピューティング需要の急増を背景にデータセンター冷却需要も拡大している。FlaktGroupの冷却水分配装置(CDU)技術とSamsung Electronicsのモジュラーチラーを組み合わせた統合ソリューションは、米航空宇宙分野の顧客企業に供給され、初の成果も出たという。
こうしたドイツでの買収、協業、製品供給を通じて構築した2本柱のバリューチェーンは、Samsung Electronicsの中長期成長戦略の中核になりそうだ。SDVとAIの両分野で、部品供給企業から統合ソリューション提供企業への転換を進めている。
同社はHarmanを通じてデジタルコクピットからADASまで事業領域を広げ、FlaktGroupの取り込みによってデータセンター冷却では空冷から液冷までポートフォリオを拡充した。業界関係者は「Samsung Electronicsはドイツで半導体、電装、空調を結び付け、SDVとAI時代に必要な統合ソリューションの基盤を整えた。部品単体ではなく、システム全体で競争力を示す段階に入った」と話した。