Amazonのアンディ・ジャシーCEOは、AI時代のサイバーセキュリティでは従来の人手中心のパッチ対応に限界があるとして、エージェントが数分で更新を適用できるよう、企業のソフトウェア設計を見直す必要があるとの認識を示した。
ジャシーCEOは、ベンチャーキャピタルAndreessen Horowitz(a16z)のYouTubeチャンネルに出演し、共同創業者のベン・ホロウィッツ氏、ゼネラルパートナーのエリック・トーレンバーグ氏との対談でこうした考えを語った。
同氏は「AIモデルは人間よりはるかに多くの脆弱性を見つけられる」としたうえで、企業は「ほぼすべてのコードを、エージェントが扱える形に書き換える必要がある」と強調した。
その背景として、AIを巡る議論が極端な将来不安に偏る一方で、目の前のリスクであるサイバーセキュリティへの関心が十分ではないと指摘した。
現在の脆弱性対応については、「脆弱性が見つかると、人が分類し、パッチを作成する。急いでもシステム間の依存関係が絡むため、実際に配布するまでに長い時間を要することが多い」と説明。そのうえで、「AIが脆弱性を見つけるスピードに、このやり方では追いつけない」と述べた。
今後は、パッチの適用を数分単位で完了させる体制が必要になるとの見方も示した。「エージェントが更新できるようアプリケーションをあらかじめ書き換えておかなければ、新しい世界では競争にならない」と語った。
対談ではこのほか、AI時代のセキュリティに加え、パンデミック後の物流網の再構築、データセンターを巡る政治的論争、自社チップ「Graviton」「Trainium」、AnthropicとOpenAIへの株式投資、Alexa部門の再編についても見解を示した。
ジャシーCEOの就任から5年目を迎える中、Amazonの売上高は約80%増加し、クラウド事業のAmazon Web Services(AWS)は約3倍の規模に拡大したという。
AWSのAI事業は、この3年で年換算売上高(ランレート)250億ドル(約3兆7500億円)に達した。ジャシーCEOによると、初期のAWSと比べて数百倍のスピードだという。Amazonは今年、設備投資に2200億ドル(約33兆円)を投じる計画だ。
同氏は、15年前の経営陣の朝会で、ある通信会社が設備投資に500億ドル(約7兆5000億円)を投じたというニュースを聞き、誰もが信じられなかったというエピソードも紹介した。そのうえで、「今の数字は驚異的だが、それでも十分ではない。今年2200億ドルを投じても、需要に対応しきれない」と述べた。
AI需要については、「バーベル」型の構図で説明した。片側には、前例のない規模で計算資源を必要とするAI研究開発企業や、ChatGPT、Claude Codeのような少数のヒットアプリがある。もう一方には、顧客対応、詐欺検知、業務自動化などで、コスト削減と生産性向上を狙う企業の活用領域があるという。
ジャシーCEOが、AIの利用量ベースで最大の市場になるとみているのは、その中間に位置する企業の既存の運用業務だ。多くの企業で、まだAIが広範に適用されていない領域だとしている。
この領域ではコストが大きな論点になるという。「学習を終えたモデルが実際に回答を生成する推論コストは、この数年で大幅に低下した。それでもなお高コストだ」と説明した。
さらに、「既存アプリケーションをAI向けに作り直すには、企業が投じるコストを上回る効果を確信できなければならない。推論コストが下がれば、その判断基準も下がる。最終的には、あらゆるアプリケーションがより賢く、より有能になる」と述べた。
組織の在り方についても、AIによって変化が起きるとの見方を示した。企業が大きくなるにつれて業務が細分化・専門化するのは一般的だが、AI時代にはそれが必ずしも適さないとの認識を示した。
同氏は、同じ仕事をこなすのに必要な人員は減るとの見通しも示した。「人が不要になるわけではないが、事業拡大に合わせて人員を増やし続ける時代は終わる。その分はAI、ロボット、宇宙といった分野で生まれる新たな仕事が吸収する」と語った。
また、「AIが仕事の80%を処理するようになれば、1人で複数の職務をまたげるようになり、チームはより小規模になる。どのチームも、これまでよりはるかに先の地点から仕事を始め、新しいものをより速く、より多く生み出せるようになる」と付け加えた。