クリエイティブ資産管理プラットフォームを手掛けるAirの共同創業者兼CEO、シェイン・ヘグデ氏はこのほど、X(旧Twitter)への投稿で、AI時代に対応するため自社の運営手法を大きく見直した経緯を明らかにした。従来のSaaSの強みは維持しつつも、指標や課金体系、開発文化は抜本的に変える必要があると訴えている。
ヘグデ氏は、「SaaSの強みは守りつつ、SaaSのプレイブックは捨てよ」と強調した。
Airは、写真の整理や動画の承認、エージェンシーとのコンテンツ共有など、制作現場の業務を一元化できるよう支援するサービスだ。
同氏によると、Airは今年初めの時点で50%を超える成長を維持し、顧客維持率も一定水準を保っていた。ただ、取締役会メンバーのジャレッド・スリーパー氏からは「凡庸なSaaS領域だ」と指摘されたという。
ヘグデ氏自身も、AI動画スタートアップのHiggsfieldのように、最新技術を武器に急成長する企業を見て焦りを感じていたと振り返る。
一方、Airが向き合うのは、整理作業を煩わしく感じるクリエイターだ。従来のやり方では急成長は容易ではなかった。しかしAIの登場で状況は変わった。整理作業をAIが自動化し、データが蓄積されるほどAIでできることも広がるサービス像が見えてきたためだ。
Airも、メタデータの自動補完や顔認識、セマンティック検索、キャンバス、50種類超の生成モデル、AIエージェントなどを投入した。だが、成果は期待ほどではなかった。ヘグデ氏は当時を振り返り、「依然としてSaaS流のやり方に縛られていた」と述べている。
もっとも、同氏はSaaSそのものを否定しているわけではない。顧客が簡単には離脱せず、利用が進むほど契約規模も拡大し、成長予測も立てやすいという利点は、今なお有効だとみている。その上で、事業運営の前提は変えなければならないとした。
同氏は「AIネイティブの時代に重要なのは、顧客がどれだけ継続的に、しかも深く使ってくれるかだ。顧客が毎日の習慣として使ってこそ、市場で生き残れる製品になる」と語った。
Airが見直したのは大きく3点ある。1つ目は主要指標だ。月間の新規年間経常収益(ARR)ではなく、「アクション・クレジット・ユニット(ACU)」を中核指標に据えた。顧客がAI機能を1回使うごとに価値を測る考え方で、機能ごとのクレジット消費量は、顧客が感じる価値に応じて設定したという。
マーケティング、営業、顧客管理まで、全社の成果はACUで測る。毎朝9時には、前日のACU推移を示すグラフが社内チャネルに共有され、全社員がそれを確認して1日を始める。
2つ目は課金設計だ。Airは3000社を超える顧客企業に対し、新規契約や更新時にAIの基本利用枠を組み込んだ料金体系を適用し、上限を超えた分には追加料金を課す方針に切り替えた。携帯電話のデータ通信プランに近い仕組みとしている。
あわせて、カスタマーサクセスマネジャー(CSM)はフィールド配備エンジニア(FDE)に切り替えた。評価基準も、従来の契約更新やアップセル中心から、顧客にAI機能をどれだけ実際に使ってもらえたかへと軸足を移した。
3つ目は組織文化だ。Airは、企画とデザインを固めてから開発に入る従来のプロセスをやめ、エンジニアがまず作って試す文化へ転換した。意思決定権限も現場に委ねた。その結果、小規模化した製品組織で、毎月の製品改善のリリース本数は従来比12倍に増えた。
こうした見直しの効果は数値にも表れている。ACUは直近5カ月で15倍に拡大した。直近48時間の利用量は9月1カ月分を上回り、10月も前月比で少なくとも4倍の増加を見込む。過去1年の成長率は2倍、新規ARRは3倍に拡大した。
ヘグデ氏は「世界の変化はあまりに速く、長期計画を緻密に立てている余地はない。今は目標だけを定め、細かく干渉せず、チームに思い切って走ってもらうやり方だ」と述べた。