OpenAIのサム・アルトマンCEOは、同社の数学分野への本格参入を受け、数学界がAIへの不信や反発を経て受け入れ局面に入りつつあるとの見方を示した。一方で、AIが導いた研究成果をどう検証し、誰が説明責任を担うのかを巡る論争はなお続いている。
米Business Insiderが10月22日(現地時間)に報じたところによると、アルトマン氏は最近、スタンフォード大学での講演で、数学界は不信と怒りの段階を経て、受容へ向かっていると語った。
アルトマン氏によれば、OpenAIが数学の難問解決に本格的に乗り出した直後、数学界には大きな衝撃が走った。初日には「数学界は終わった」といった反応が出て、大学院生に専攻変更を勧める声まであったという。
その数日後には反発が強まり、「OpenAIがこんなことをするのはひどい」といった受け止め方も広がったとした。
ただ、その後は見方が変わり始めたという。多くの数学者が、AIを使えば従来とは異なる手法で、より多くの研究成果を上げられると考えるようになったと述べた。AIは数学研究や証明の査読において、不可欠なツールになりつつあるとの認識も示した。
もっとも、こうした楽観論とは別に、学界の懸念は根強い。OpenAIは9月、代表的な数学の難問として知られるナビエ-ストークス方程式の「存在性と滑らかさ」の問題を解いたと発表した。
これを受け、研究成果に至る過程や公開のあり方、学界への影響を巡って議論が広がった。
New York UniversityとAnthropicに所属する研究者の研究内容が、OpenAIによる問題解決に使われたかどうかも論点になっている。OpenAIは、当該研究者の対話記録は閲覧しておらず、関連する記録もモデルに影響を与えていないと説明した。
学界の一部では、AIが示した結果を最終的に人間が理解し、検証しなければならない負担も指摘されている。
論争は学術イベントにも波及した。California Institute of Technologyの学部生らが企画した「mathathon」は、参加者がAIを使って数学の難問に挑む大会だ。
しかし、研究者や学生700人超が、十分な検証を経ていないAIの成果物が大量に生み出されかねないとして反対し、OpenAIはスポンサー支援を取り下げた。その後、主催側は検証要件などを強化し、大会は11月に開催される予定だという。
研究手法の急激な変化への警戒も続く。UCLAの数学者テレンス・タオ氏は今月、OpenAIが700件を超える問題を追加で解いたと発表した後、数学の「ロマン主義時代は終わった」と述べた。
これは、卓越した研究者が個別に難問を解く従来型の研究から、AIの出力を検証するワークフローへ移行する中で、失われるものがあるとの問題提起だ。
一方、アルトマン氏は、AIの普及がそのまま「仕事の終焉」につながるわけではないと述べた。企業がAI導入に合わせて人員を再編しても、職そのものが消える状況にはならないとの見方を示した。
ただ、数学分野で起きている変化のスピードは、他の産業や学問領域よりはるかに速いとも認めた。ある分野が衝撃と反発を経て受容に至るまでの過程を、これほど短期間でたどった例は初めて見たと語った。
数学界を巡る議論は、AIの問題解決能力そのものを超え、研究者の役割や検証責任へと広がっている。AIを新たな研究ツールとして取り込む動きが進む一方で、その成果を人間がどう理解し、どう検証していくのかが主要な論点になっている。