【マウイ(米ハワイ州)】Qualcommは、スマートグラスをSnapdragon事業の最重要領域に位置付ける。利用者に最適化した応答を返すAIエージェントには、見ているものやいる場所、行動状況といった文脈情報が欠かせず、常時身に着けるグラスがその取得に最も適していると判断しているためだ。
ジアド・アスガル Qualcomm上級副社長兼XR・ウェアラブル・パーソナルAI部門責任者は24日(現地時間)、米ハワイ州マウイで開催した「Snapdragon Summit」のパーソナルAIラウンドテーブルで、「エージェントは、誰が質問しているのか、その時に何を見ているのか、自宅にいるのかオフィスにいるのか、歩いているのか、タクシーを呼ぼうとしているのかまで理解する必要がある」と述べた。こうした文脈情報は、スマートグラスに加え、ピン、ペンダント、スマートウォッチなどからも取得できるという。
機器の形状によって、エージェントの利用頻度も変わるとの見方も示した。顧客企業の事例として、「スマートフォンでは1日2回しかエージェントを呼び出さなかった利用者が、グラスでは13回利用した」と紹介。「初期段階のデータではあるが、利用頻度の違いは見えてきた」と話した。ポケットからスマートフォンを取り出さなくても、歩行中や移動中にすぐ呼び出せることが背景にあるという。
アスガル氏は、現在のスマートグラス市場を、15年前にスマートフォン市場でSymbianからAndroidへの移行が進んだ時期になぞらえた。「当時、新しい携帯電話に投資した企業が、現在のリーダー企業になった」とした上で、「今グラスに投資する企業にも、この分野で将来のリーダーになる可能性がある」と語った。ヘルスケア、エンタープライズ、産業、教育など未開拓の領域がなお多く、革新の余地は大きいとの認識も示した。
◆Qualcomm「新型機器は約40」 クラウド企業やスタートアップも参入
Qualcommは、スマートフォンで築いた主導権を新たなフォームファクターでも維持することを最優先課題に据える。アスガル氏は、クリスティアーノ・アモンCEOが最近言及した「約40の新型機器」について、「従来の顧客とは異なる北米や中国のクラウド企業に加え、新しい体験の創出を目指す多くのスタートアップが参入している」と明らかにした。
その上で、「スマートフォン向けのIPや技術をそのまま持ち込んでも、グラスは作れない。電力効率とユーザー体験に合わせて再設計する必要がある」と強調した。
Qualcommは10年以上にわたり、ハンドトラッキングやアイトラッキングといった認識技術を研究してきた。アルゴリズムをシリコンに実装し、極めて低消費電力で動かせるようにしているという。こうした技術は、音声に加え、ジェスチャーで機器を操作するインターフェースの基盤になるとしている。
一方でアスガル氏は、AIグラスがスマートフォンを置き換えることはないとの見方を示した。スマートフォンの登場後もPCが残ったのと同様に、利用シーンの一部がグラスに移るにとどまり、今後は1人の利用者がスマートフォンに加えて、ウォッチやグラス、イヤーバッド、ペンダントを併用するようになるとみている。
「メールはPCよりスマートフォンで処理することが増えたが、長文を書くときは依然としてPCに戻る」とした上で、「スマートフォンとパーソナルAI機器は共存する」と語った。スマートフォン以外にも複数の機器を持つようになる点こそが、この市場の潜在力だと位置付けた。
◆グラス向け次世代基盤を多層展開 「価値を決めるのはAI体験の継続的な改善」
市場の立ち上がりには時間が必要だとの見方も示した。現在AIグラスを手掛ける企業の一部は、眼鏡開発の経験が乏しく、眼鏡がファッションアクセサリーでもあることを学んでいる段階にあるという。
アスガル氏は「この部屋にいる全員が同じ眼鏡をかけていては受け入れられない」と述べ、サイズや色、形状の選択肢に加え、終日装着できる軽さ、さらにAI体験の継続的な改善が必要だと指摘した。
そのためQualcommは、終日装着を前提にした軽量化をパートナー企業と進めている。初期の携帯電話が、通話専用機から多機能端末へと進化して定着したように、グラスもAI体験が継続的に向上してこそ価値が認められると説明した。
現在Qualcommは、性能帯ごとに複数のプラットフォームを用意している。カメラを搭載しないオーディオグラス向けにはSnapdragon Sound系を、カメラ搭載モデルにはSnapdragon AR1を提案する。片眼または両眼ディスプレイを備えたグラスもAR1で開発でき、完全没入型のARグラスにはSnapdragon AR2を適用する。
アスガル氏は「顧客がどのような機器を作るかを自ら選べるよう、あらゆる性能帯をそろえている」と述べた。