「AIがコードを書いている間に、次の作業サイクルを回し始めてはいけない。燃え尽きてしまう。むしろ、その時間は文章を読み、同僚にペア作業を持ちかけ、自分でも書いてみるべきだ」
メディアプラットフォームMediumでスタッフソフトウェアエンジニアを務めるスコット・バッソン氏は、AIによって生まれた余力をどう使うべきかについて、Mediumへの投稿でこう提言した。AIに次々と作業を任せれば短期的な生産性は高まるが、長期的には仕事を抱え込み、燃え尽きにつながりかねないという。
同氏によると、AIツールを業務に取り入れたことで生産性は大きく向上した。以前なら数日を要した作業が、数時間で終わるようになった。一方で、単に作業速度が上がることが、そのまま良い結果につながるわけではなかったと振り返る。
バッソン氏は当時の自分を、漫画のキャラクター「フラッシュ」に重ねた。超能力を手に入れて勢いよく走り回るものの、どこへ向かうべきかは見えていなかったという。
「生産性が5倍になったら、5倍の仕事を引き受けてしまった。バグ報告も新しい設定ページも管理者ツールも、全部自分でやると言い出したが、待っていたのは燃え尽きだった」
同氏はそう振り返り、「以前より10倍速く燃え尽きた。コードレビューは雑になり、プルリクエストは何週間も放置された。抱えていた文脈も次々に失われていった」と明かした。
こうした経験を経て、同氏は仕事量を増やすのではなく、働き方そのものを見直す方向へかじを切った。そこで見えてきたのは、自分が最も満足感を得られるのは、新しいことを学ぶ時、あるいは誰かの学びを手助けする時だという点だった。
その結果、AIエージェントが下位タスクを自動で切り出し、プルリクエストを積み上げている間は、新たな作業のループに入るのではなく、別の行動を選ぶようになった。文章を読み、同僚にペア作業を提案し、自分でも書く。そうした時間の使い方へ切り替えたという。
同氏は15年以上にわたってWeb開発に携わってきたが、その過程で技術記事を必要な部分だけ拾い読みする癖がついていた。欲しいコードを探し、結論だけを確認し、ライブラリのリンクだけを開く読み方だったという。
AIがなかった頃は、コーディングそのものに時間を取られ、他人の文章を落ち着いて読む余裕がなかった。その結果、文章の書き手の個性や、互いに重なり合う経験、開発者ごとの異なる歩みといった、この業界の人間的な側面を見落としていたと述べている。
最近は、ドキュメントも以前より丁寧に読むようになった。例えばReactのView Transitionについても、コード片だけを抜き出すのではなく、仕組みそのものから理解しようとしているという。
こうした読み方の変化は、AIエージェントへの指示の出し方にも影響した。機能として何がどこまで必要なのかを正確に把握しなければ、エージェントにも適切な指示を出せなくなったとする。
同氏が最も価値のある活動として挙げたのは、執筆だ。「社内メディアに、ほぼ毎日、業務日誌を書いている。以前なら15分すら惜しくて手を付けられなかった」と話す。
その反応は予想以上だったという。「同僚が文章を読んでコメントを残し、それが実際の会話につながった。コンテンツカレンダーや新しいエディターページといった成果物も、そうしたアイデアから生まれた」と説明した。
さらに同氏は、「AIで得た生産性を、実際のユーザーにとって意味のある成果へ振り向けられた。トークン費用を払う価値のある仕事だ」と強調した。
その上で、「速度を落とし、考えを文章に落とし込む中で気付いた。慎重に仕事をするほど、長期的な生産性は高まる」と指摘。「今は以前より10倍多く作っているわけではない。だが、今作っているものには10倍の意味がある」と締めくくった。