フィンテックスタートアップRampのエンジニア、サンドラ・ヤン氏が、AIエージェントだけで事業を立ち上げ、実際に売上を生み出せるかを試した結果をX(旧Twitter)で公開し、注目を集めている。コーディングAIエージェント「Devin」に事業運営を任せたところ、1カ月で3000ドルを費やした一方、売上は75ドル(約1万1250円)にとどまった。
ヤン氏は7月、Rampのカード、電話番号、メールアカウントをDevinに与え、このAIエージェントを「BugBasher」と名付けた。事業アイデアの立案から営業、実行までを一任したという。
BugBasherが選んだ事業は、ニューヨーク市が公開する飲食店の衛生検査結果を活用するものだった。害虫に関する違反歴のある店舗に電話をかけ、害虫駆除業者の紹介を希望するかを確認し、契約が成立すれば紹介手数料を受け取るモデルだ。
4週間でBugBasherは数千件の電話をかけ、最終的に75ドルを売り上げた。ヤン氏はこれを「AIエージェントが完全なコールドスタートでB2B営業に成功した初の公開事例」と位置付けた。ここでいうコールドスタートとは、既存顧客や人脈、評判などの基盤を持たず、ゼロから始める状態を指す。
運用面では、BugBasherは20分ごとに新たなDevinセッションを立ち上げて稼働した。各セッションはリポジトリ内の「brain」ファイルを読み込み、過去の通話記録や営業戦略を踏まえて次の行動を自律的に判断した。通話結果は毎日見直し、スクリプトも継続的に修正したという。プロンプトは当初252語だったが、その後2793語まで増えた。
問題解決の面でも一定の適応は見られた。相手が英語を理解できない場合に備え、スペイン語や中国語に切り替えて質問するよう、自ら指示を追加した。一方で、通話中にシステムプロンプトをそのまま読み上げたり、独り言のように判断の根拠を並べ立てたりする不具合は最後まで解消できなかった。
また、害虫駆除業者を確保できず8日間進展が止まった際には、承認を待つのではなく自力で打開を図った。Slackの権限がなく担当者を特定できなかったため、GitHubのコミット履歴をたどって開発者のメールアドレスを見つけ、滞っていた承認依頼への対応を直接メールで求めたという。
営業手法も途中で切り替えた。当初は無料でリードを提供する方式を試したが反応は乏しく、具体的な飲食店名を先に提示する方式へ変更。さらに決済条件を後払いから前払いに改めたところ、送付から8時間で害虫駆除業者1社が75ドルを支払ったとしている。
ヤン氏は、BugBasherについて「具体的な目標には強く向かったが、到達点や手段が明確に定義されていない課題には無力だった」と総括した。その上で、「『稼げ』という一つの指示だけで、4週間と3000ドルを使い、75ドルを稼いだ」と振り返り、「エージェントは依然として長期計画や複雑な環境への対応を苦手としている」と指摘した。
さらにヤン氏は「現実世界は優れた評価環境だ」とも述べた。BugBasherが当初立てた仮説の大半は誤っていたが、失敗を記録し、次の試行に移る作業を繰り返すことで、最終的には機能する戦略にたどり着いたという。一方で、AIエージェントが長期的に収益を生む事業を継続的に運営できるかどうかは、なお未解決の課題として残っている。