Microsoft共同創業者のビル・ゲイツ氏が、AIを巡る従来の比較的楽観的な見方から一段と慎重な姿勢に転じた。26日(現地時間)に報じられた約6000字のエッセーで、AIの急速な普及は雇用の消失や格差拡大、グローバルなガバナンスの空白を招きかねないと警告し、ロボット税や「人が担う職域」の確保、政府内の専担機関や国際組織の整備を提起した。
The Vergeなど複数の海外メディアによると、ゲイツ氏は世界がAI拡大に「まったく備えておらず、備えようともしていない」と指摘した。2023年時点ではAIを比較的前向きに評価していたが、今回は人類の共通の未来に及ぼす影響をより悲観的に捉えた格好だ。
同氏は、AIが「これまで発明された最も偉大な平等化の手段」になり得る一方で、「最悪の不正義の源泉」にもなり得るとした。AI時代への移行は「人類史上、最も激動する時期の一つ」になるとの見通しも示した。
さらに、AIの進展を世界的に遅らせる信頼できる計画があるなら「おそらく支持する」とも述べた。
なかでも中心的なリスクとして挙げたのが雇用への打撃だ。現行モデルの性能限界や、PC普及のような過去の技術革新との比較から影響を過小評価する向きが多いとし、今回の変化は従来の技術普及とは性質が異なると主張した。
ゲイツ氏は「多くの仕事は恒久的に失われる」と警告した。ホワイトカラー、ブルーカラーを問わず代替のリスクが広がる可能性があるとし、政治指導者に対しては、失業の急増や地域社会への打撃、公的信頼の毀損が表面化する前に対応すべきだと促した。
政策面では、より踏み込んだ提案も示した。企業が従業員を雇えば賃金に課税される一方、ロボットを導入した場合は多くが事業費として即時償却できるため、現在の税制は人から機械への置き換えを後押ししていると指摘した。
そのうえで、AIやロボットへの課税によってこの流れを鈍らせ、得られた財源を再教育や社会保障網の強化に充てるべきだと提案した。
同時に、一部の仕事は「人が担う職域」として残す必要があるとの考えも示した。例えば、建設業で働いてきた55歳の労働者に介護施設での勤務への転換を求めても、満足のいく結果は期待しにくいという経済的な現実があるとした。
また、不治の病の診断のように、技術的にはロボットで代替できても、代替すべきではない領域があるとも指摘した。人が担うべき範囲は時間とともに変わり得るとしつつ、まずは一部の職業を対象に線引きを行い、数年から数十年かけてAIを段階的に導入していく方法も検討に値すると述べた。
もっとも、こうした2つの提案は主要AI企業の収益に大きな影響を与えかねず、業界内でこれまで本格的に議論されてこなかったとみられる。誰がルールを定め、どのような内容を盛り込むのかも、なお定まっていない。
ゲイツ氏は、既存の制度ではAIを十分に管理できないとも訴えた。AIは税制、労働、保健、国家安全保障、教育に同時に影響を及ぼすため、省庁ごとに分かれた従来型の体制では全体リスクを把握しにくいという。
このため、各国政府の内部で優先順位を調整し、リスクを横断的に統括できる専担機関が必要だと主張した。
さらに、国境を越えるリスクに対応する国際組織の必要性も訴えた。ただ、どのリスクをどのような枠組みで管理するのかについて、具体案は示していない。
核、航空、オゾン層保護を巡る国際協約から示唆は得られるとしながらも、「これまで我々が作ってきたどの機関とも異なる」ものになると述べた。米国と中国の協力が不可欠だと認めた一方、実現への具体的な道筋には踏み込まなかった。
同氏は「ゆっくり動く余裕はない」とも強調し、国際組織の創設に向けた議論を今すぐ始めるべきだと促した。
また、AI業界の関係者が開発速度の調整を求めて公表した公開書簡「Pacing the Frontier」にも言及し、一定の共感を示した。ただし、その流れが持続可能かどうかについては懐疑的な立場を取ったという。
こうした姿勢は、科学・医療分野でのAI活用には期待を寄せつつ、雇用への衝撃を強く懸念する点で、Anthropicの政策スタンスに近いとの見方も出ている。
ゲイツ氏は最近、AIを巡る公開論議では比較的発言を抑えていたとされる。今回のエッセーは、その沈黙を破るメッセージとして受け止められている。
今後は自身の時間と影響力を使い、AIと公平性の問題をより大きな公的アジェンダへ押し上げていく考えも示した。ワシントンDCを訪問する際や世界の指導者と会うたびに、関連する論点を提起していくとしている。
あわせて、AIの利益が害を上回るようにするための追加提案や、ゲイツ財団におけるAI活用方針についても近く改めて説明すると予告した。今回の文章は、技術楽観論よりも社会的影響の管理と制度設計に軸足を移し、ゲイツ氏がAI論議の前面に再び立つシグナルと受け止められている。