KB国民銀行・KB金融持株で金融AI2センター長を務めるイ・ギョンジョン氏は27日、ソウルのCOEXで開かれた「Snowflake World Tour Seoul」の基調講演で、AIの競争力はモデル性能ではなく、エージェントが信頼して利用できるデータ基盤にあるとの認識を示した。モデル性能の平準化が進む中、今後の差別化はデータの品質と活用度が左右すると述べた。
同氏は、KB金融グループのAI戦略を「検索から行動へ」と要約した。社内データを基盤に、必要な場面で自律的に業務を遂行するエージェント型AIへの移行が必要だと訴えた。
イ氏は、現在企業で活用されているAIの多くは、質問への回答や文書・レポートの提示にとどまる「検索型AI」だと指摘した。こうしたAIは有用ではあるものの、最終的な確認やシステムへの入力は人手に頼る必要があり、限界があるとした。そのうえで、次の段階は業務を直接実行する「行動型AI」だと位置付けた。
行動型AIは、人が担ってきた運用業務を自動化し、複雑な多段階プロセスも自ら計画して完了できるという。これにより、従業員はより重要な業務に集中でき、生産性向上につながると説明した。
一方で、こうしたAIの実装には事前準備が欠かせないと強調した。必要な条件として、(1)推論と関数呼び出しを自然にこなせる基盤モデル、(2)MSA基盤のシステムとMCPを通じた複数システム連携によって、エージェントに実業務を遂行する手段を持たせること、(3)行動の根拠となるデータを信頼できる構造で整備すること――の3点を挙げた。とりわけ、AIが理解できるデータ環境の整備が、ビジネス文脈を踏まえて行動するAIの前提になるとした。
企業のAI導入におけるデータ面の課題については、大きく3つあると整理した。
第1に、データレイヤーの問題だ。現在のデータは業務処理やバッチ処理を中心に蓄積されており、定型・非定型文書の多くが十分に構造化されていないという。ビジネス文脈が反映されていないため、AIが取り込んでも意味を適切に把握しにくいと説明した。
第2に、プラットフォーム連携の課題を挙げた。システムやプラットフォームが分散しているため、新たなデータを接続するたびに個別開発が必要となり、適用段階ごとに同じ作業を繰り返すことで導入スピードが落ちると指摘した。
第3はインフラの制約だ。既存のITインフラではAI技術の変化の速さに追随しにくく、リアルタイム処理や大規模演算に必要な拡張性も確保しづらいという。このため、モデルの性能が高くても、エージェントが実際に行動するためのデータ基盤を整えにくいと述べた。
こうした課題を踏まえ、KB金融持株は「行動型AI」に向けた環境整備を2つの軸で進めている。
1つ目は、データを意味中心の構造へ転換することだ。単に保存するだけでなく、ビジネス文脈や意味を含んだデータに変えることで、AIが受け取った時点で意図を理解できるようにする考えだ。
2つ目は、必要なときにすぐ接続できるオンデマンド型の構造だ。このためKB金融グループはSnowflakeプラットフォームを導入し、データ運用の方式も見直した。IT部門が一方的に管理するのではなく、データを最もよく理解している業務部門がオーナーシップを持って生成・管理する体制へ移行したという。業務部門がドメインデータを生成するとSnowflakeのデータマーケットプレイスに登録し、担当者やAIが必要なデータをすぐに取り込んで活用できる仕組みを整えたとしている。
KB金融持株は2024年、エージェント型AI開発向けの専用プラットフォーム構築に着手し、その後、正式サービスへ移行した。2025年には、資産管理と個人金融を支援するフロントオフィス向けエージェントを先行投入し、続いて資産管理エージェント、金融相談エージェントも提供した。
資産管理エージェントは顧客ポートフォリオを分析し、市場動向の迅速な把握を支援する。金融相談エージェントは、複数の営業窓口における相談業務を支援する。KB金融グループは今後、提供するAIエージェントの数をさらに増やす計画だ。
足元では、ミドルオフィスとバックオフィス領域にもエージェント開発を広げている。イ氏によると、リスク管理エージェントは市場リスクと信用リスクをリアルタイムで点検し、異常の兆候を自動検知する。与信審査エージェントは融資審査プロセスを自動化し、スピードと精度の向上を図る。法務支援エージェントは、契約書レビュー、規制変更のモニタリング、コンプライアンス点検までの自動化を目標に開発中という。
また、ソフトウェア開発の全工程にもAIエージェントを投入し、企画から開発、テスト、デプロイまでを支援する環境を整えた。データ分析エージェントは、データ集計や前処理、総合分析、レポート作成まで担うとしている。
今後のエージェント型AI戦略として、イ氏は3つの方向性を示した。まず、Snowflakeを基盤にKBのデータ資産を統合し、エージェントが即座に活用できる構造を完成させる。あわせて、フロントオフィスからバックオフィスまで全領域でエージェントの展開規模を拡大する。
さらに、MCPを活用したシステム連携を通じて、単なる回答生成を超え、業務を直接実行・管理する「行動型AI」へ転換する方針も示した。
イ氏は「KB金融グループが構築するAIデータ体系は、競合が容易に複製できない長期的な競争戦略になる」と強調した。